あたたかに良寛遺墨海展らけ 松村蒼石
お習字のはじまつてゐる椿かな 石田勝彦 秋興
お習字の濡れてゐる間のゑのころよ 波多野爽波
がん二字の墨痕星をまつりけり 中本柑風
きさらぎの山道見ゆる書道塾 廣瀬直人
ぐいぐいと筆法のびる大文字 きくちつねこ
ころころと兄の筆跡栗月夜 小檜山繁子
さくらのような薄墨の朝いつかくる 宇多喜代子
しだれ梅薄墨色の夜空より 大野林火 月魄集 昭和五十六年
しづるとき薄墨となる春の雪 岩坂満寿枝
ちはやぶる神の運筆雪間川 林翔
のこる蚊を追ふ校正の朱筆以て 山口誓子
ふくませて朱墨はかなし筆始 三浦恒礼子
ほととぎす鳴く音や古き硯箱 松尾芭蕉
ゆく秋や月の遺墨を掛け通し 荒井正隆
わが庭に来ませ薄墨初桜 稲畑汀子
庵主の禿筆を噛む試筆かな 村上鬼城
遺墨にも月日涼しく流れけり 辻口静夫
遺墨見て越後炉ばたの灰かぶる(越後、島崎に良寛遺跡を訪ふ) 細見綾子
遺墨見て風の椿の耳門辞す 宮武寒々 朱卓
遺墨展しぐれ呼ぶ灯に集ふかな 伊藤京子
遺墨展見て爽やかに鬼城の忌 山王堂正峰
一行の遺墨のごとく蟻の道 鷹羽狩行
一行の墨痕淋漓青嵐 鷹羽狩行
陰陽師 落花のつみを贖ふと未明のそらの薄墨の母 筑紫磐井 未定稿Σ
雨あしを薄墨いろに白牡丹 鷹羽狩行
雲の日の薄墨に花うすずみに 大橋敦子 匂 玉
炎昼をこもり賜ひし朱筆かな 草間時彦 櫻山
牡丹や揮毫の書箋そのまゝに 杉田久女
加筆なほ気負ひの筆勢桜桃忌 奈良文夫
火の筆勢そのままに雪大文字 鷹羽狩行 八景
花に酌む鮮人あるは揮毫せる 森川暁水 黴
花の雲あれが薄墨桜とや 高野素十
蚊たたいて子規遺墨集一瞥す 阿波野青畝
蚊を叩き「墨汁一滴」よごしたり 阿波野青畝
戒名の筆跡の美さ雪や来る 渡邊水巴 富士
垣まで南瓜這わして習字教授とある其の隣 荻原井泉水
郭公薄墨時の遠音かな 完来
寒の鯉描く薄墨を塗りかさね 能村登四郎
寒菊や古風ののこる硯箱 榎本其角
寒食や薄墨流す西の空 会津八一
雁わたる薄墨使ひはじめの夜 原裕 新治
吉書揚金冬心に似し習字 阿波野青畝
空海の筆跡茅花流しかな 白澤良子
熊蝉に 妻の習字は小半時 伊丹三樹彦 一存在
硯箱に秋海棠の蒔繪哉 正岡子規 秋海棠
硯箱ふたよの月を見納めぬ 黒柳召波
見るうちに薄墨になる浸け障子 能村登四郎 菊塵
枯葉つけし桑と薄墨月信濃 古沢太穂 火雲
五月雨や硯箱なる番椒(唐辛子) 服部嵐雪
五月雨や硯箱なる蕃椒 嵐雪
後ろ手に点る薄墨桜かな 五島高資
御遺墨の一軸をもて炉を開く 河田たき子
御中元と書いて墨痕淋漓たり 日野草城
梧桐の実の房々と書道展 右城暮石 虻峠
光陰のやがて薄墨桜かな 宇佐美魚目
校正の朱筆や机辺暑をきざす 山口誓子
校正の朱筆擲つおぼろかな 星野麥丘人
紅さして筆鋒ほぐる曼珠沙華 上田五千石 森林
此頃は薄墨になりぬ百日白 正岡子規 百日紅
在原雛の調度の料紙硯箱 高橋淡路女 梶の葉
散る花のなほ薄墨になりきれず 坊城俊樹
四明忌や遺墨に穂麦たてまつる 星野空外
子規遺墨漱石遺墨冬ぬくし 後藤比奈夫
斯く在りと開く薄墨桜かな 阿波野青畝
時雨れて燦と八百年の筆力 加藤知世子 花寂び
鴫立て日は薄墨に暮にけり 尚白
実篤の禿筆親し合歓の花 岡田貞峰
朱印の上いきいきと冬の遺墨 飯田龍太
朱筆置き一誌安寧鳥曇 斉藤夏風
修二会待つ生駒信貴山薄墨に 岸野不三夫
秋澄むや楸邨遺墨雄渾に 伊東宏晃
秋蝉に墨痕著るき掛色紙 飯田蛇笏 椿花集
秋扇や薄墨滲む母の文字 岡田晏司子
習字して抑ふるものや水温む 田川飛旅子
十二月小筆の増えし硯箱 伊東一升
宿帳に禿筆舐めぬ灯取虫 松藤夏山 夏山句集
出羽薄墨めざめて人は爪を噛む 澁谷道
春寒や朱墨すり出す病羽音 渡邊白泉
春灯や朱墨の濃さもこゝろよく 日野草城
春雷や筆垂直に習字塾 赤松[けい]子 白毫
初雁の空の薄墨流しかな 根岸善雄
初硯筆に朱墨を染ませけり 龍男
初仕事形見の朱筆とり出だし 星野立子
書けばすぐ悴みつつも筆力 加藤秋邨
書を校す朱筆春立つ思あり 柴田宵曲
書初の筆力今を盛りとす 矢田挿雲
書初や筆勢勁き福一字 青木愛子
書初や父となる子の筆力 小林綾子
書初や父の遺愛の硯箱 萩原まさえ
書道塾出る子入る子に玉霰 福田甲子雄
書道部が墨擦つてゐる雨水かな 大串 章
衝立の遺墨の虎や仙忌 小原菁々子
神棚の習字に盆の夕日さす 福田甲子雄
水仙に蒔絵はいやし硯箱 正岡子規
水仙に蒔繪はいやし硯箱 正岡子規 水仙
水仙花校了の朱筆おきにけり 渡邊水巴 富士
数へ日や乾ききつたる硯箱 鈴木真砂女 紫木蓮
雛の間にいつまでも黒硯箱 鷹羽狩行
西方へ灯る薄墨桜かな 角川春樹
青年の気宇の書体や夏見舞 東郷喜久子
雪の野に拾ふ薄墨羽毛なり 古賀まり子 緑の野以後
舌鋒にまさる筆鋒 沙羅の花 伊丹三樹彦
先生の夏羽織脱く揮毫哉 正岡子規 夏羽織
宣長の朱筆露けし古事記伝 長谷川史郊
川砂の薄墨いろに鳥の恋 飯島晴子
喪ごころの薄墨ふかめ秋の暮 能村登四郎
掃きよせし花屑もまた薄墨よ 近藤一鴻
草稿に朱筆一点春立てり 加藤耕子
大き師の遺墨にまみゆ福寿草 佐藤いね子
大道に書道する者片かげり 阿波野青畝
大文字の筆勢生かす残雪よ 鷹羽狩行
滝殿のしぶきや料紙硯箱 正岡子規 滝
丹頂に薄墨色の雪降り来 西嶋あさ子
短日や書体父より祖父に似る 廣瀬直人
猪鍋や薄墨色に外暮れて 遠藤正年
冬の墓「忙書体(そうばうしょたい)」を移したり 中村草田男
禿筆は 他人無用の 白椿 伊丹三樹彦
禿筆を束ね捨てけり秋の蝉 波多野爽波 『骰子』
禿筆を塚に築きて梅の花 正岡子規 梅
南無の背の墨痕滲み梅雨遍路 中村冬星
二分咲きの実は薄墨桜かな 能村登四郎
日曜は習字の寺や岩たばこ 青木重行
熱帯魚まこと墨痕淋漓たり 西本一都 景色
年行くや耳掻光る硯箱 普羅
年初め子の運筆を凝視む母 小原菁々子
派をなして薄墨すすきと言ふべかり 齋藤玄 『雁道』
梅雨・遺墨柱時計はいまの刻 大野林火 方円集 昭和五十一年
白地着て揮毫の構くづされず 阿波野青畝
白地着て揮毫の構べくづされず 阿波野青畝
薄墨がひろがり寒の鯉うかぶ 能村登四郎 有為の山
薄墨てかいた様なり春の月 正岡子規 春の月
薄墨で描かれし夏の蕨かな 佐竹 たか
薄墨にしくるゝ山の姿哉 正岡子規 時雨
薄墨に散りてこの世のさくらならず 大野林火 飛花集 昭和四十八年
薄墨に書きゐて春の風邪ごこち 八染藍子
薄墨のさくららしくて遅れ咲く 能村登四郎
薄墨のたよりなき色や懸想文 村上鬼城
薄墨のどこか朱をひく亥の子餅 有馬朗人 立志
薄墨のにじむを華と三ケ日 鳥居美智子
薄墨のひまの紺青しぐれ空 富安風生
薄墨のやつれや松の秋時雨 支考
薄墨の雨は降れども若葉かな 京極杞陽 くくたち下巻
薄墨の雨雲低し青薄 巌谷小波
薄墨の花に通ひてゐし心 稲畑汀子 汀子第二句集
薄墨の花の下臥恋ひて来ぬ 下村梅子
薄墨の花の齢にことよせむ 大橋敦子 勾 玉以後
薄墨の花より淡く風花す 稲岡長
薄墨の会津ぐもりに木守柿 徳田千鶴子
薄墨の空を離れずつばめ鳴く 廣瀬直人 帰路
薄墨の桜まぼろしならず散る 田畑美穂女
薄墨の山河をひろげ初衣桁 檜紀代
薄墨の汐こそきたれ夕すゞみ 完来
薄墨の祖母と木槿の道に遭ふ 有住洋子
薄墨の大幕雷太鼓鳴る 林翔
薄墨の仲に夕顔つぼみけり 橋閒石 卯
薄墨の冬よ笑窪の子を連れて 原裕 青垣
薄墨は花に霞の夕哉 正岡子規 霞
薄墨桜 きれいな嘘を下さいな 松本恭子 檸檬の街で
薄墨桜ことし谺の棲むことも 諸角せつ子
薄墨桜逢ひ得たりあまごに酒一盞 福田蓼汀
箱書に父の筆跡雛飾り 加藤耕子
飛び散つて蝌蚪の墨痕淋漓たり 野見山朱鳥 曼珠沙華
飛び敗つて蝌蚪の墨痕淋漓たり 野見山朱鳥
筆勢の机はなれやとしの暮 三宅嘯山
筆勢の声となりゆく墓の秋 岡本眸
筆勢の余りて切れし大文字 岡本眸
筆跡を人うたがふや貞徳忌 岡安青波
筆鋒を誰に向けんか旱星 上田五千石『天路』補遺
筆力も抜けて火燵の寫し物 会津八一
百合遺墨気多の海の歌匂ふなり 能村登四郎
百年の露けさ笹の朱墨にも 藤浦昭代
病床に鉛筆朱筆秋うちは 百合山羽公 樂土以後
浜木綿や父を墨痕ながれたり 宇多喜代子
父の筆勢減ぜし刻字燕来ぬ 香西照雄 対話
蕪村忌や軸の墨痕梅が香に 赤尾兜子 稚年記
文机と硯箱のみ葭障子 経谷 一二三
墨痕に父の温みや花曇り 水原春郎
墨痕のいづれ身に沁むものばかり 上田五千石『天路』補遺
墨痕の隆々として古扇 石田勝彦 秋興以後
墨痕を淋漓のままに古屏風 鷹羽狩行
墨汁のかわく芭蕉の巻葉かな 正岡子規 芭蕉の巻葉
墨汁のごとき川見て福詣 福永耕二
墨汁も筆も氷りぬ書を讀まん 正岡子規 凍る
墨汁をぶつかけしさま焚火消す 阿波野青畝
墨壺の糸ぴんぴんと山眠る 長谷川双魚 『ひとつとや』
墨壺や大工の覗く梅の花 怒風
抹殺の朱筆をおきてさわやかに 三橋鷹女
万緑や揮毫の全紙老を乗せ 赤松[ケイ]子
満関の花の薄墨暮れにけり 渡邊千枝子
夢に書く墨痕淋漓屏風 山口青邨
椋鳥過ぎて薄墨いろのながれけり 古舘曹人 樹下石上
唯一の父の遺墨も黴の頃 林翔
夕影を曳く薄墨の花に又 稲畑汀子 汀子第二句集
夕永くなりぬ堆朱の硯箱 大野林火 方円集 昭和四十九年
用始禿筆を噛む小吏かな 村上鬼城
落款の丹の冴え冴えと遺墨あり 上田五千石『天路』補遺
旅に見る父の遺墨や露の秋 大橋敦子 手 鞠
丼の墨汁灼けて葬終る 田口珂那
橙の花入れてある硯箱 岡本清子
祗王寺の今昔薄墨椿咲く 山田弘子
芒描く薄墨さらにうすめつつ 能村登四郎
藪入や父が遺愛の硯箱 沼澤石次
蝙蝠や薄墨にしむふしの山 正岡子規 蝙蝠
鯊の宿薄墨色に鷺わたる 高橋馬相 秋山越
鰆舟薄墨に陸暮れゆけり 根岸善雄
鵙鳴くや朱筆のしるき破戒の稿 羽田岳水
鵯鳴くや筆勢強き久女の書 里坂紫陽子
黐咲いて久女の遺墨蔵す寺 能村登四郎
以上
あきらめし旅あり硯洗ひけり 水原秋櫻子 餘生
あつき日や硯の中の砂ほこり 暑 正岡子規
あをば木莵硯の海の涯かな 岡井省二
いで来たる硯の蝿の一つかみ 炭 太祇 太祇句選
いにしへの硯洗ふや月さしぬ 加藤楸邨
うき草に硯洗へり鵜匠の子 飯田蛇笏
うす墨の硯の沖に雪来つつ 和田悟朗
おもかげの映ろふ硯洗ひけり 上田五千石『琥珀』補遺
おもへただ硯あらひの後の恥 斯波園女
おもへただ硯洗ひの後の恥 園女
おもへたゞ硯洗ひの後の恥 園女 俳諧撰集玉藻集
かなかなや硯の海に波立ちて ふけとしこ 鎌の刃
きくの露受て硯のいのち哉 蕪村 秋之部 ■ 山家の萩見にまかりけるに、あるじの翁、紙硯をとうでゝ、
きさらぎの月も望なる硯冷 百瀬美津
きさらぎは雀飛び立つ硯かな 五島高資
けさの秋硯に筆のすべり哉 今朝の秋 正岡子規
けし垣の内や硯の小町形 万里 俳諧撰集玉藻集
こがらしや硯いて逃る淵の色 蕪村遺稿 冬
この硯誰にゆづらん洗ひけり 美津口たけお
さざなみや硯洗ひし手をあらひ 長谷川双魚 『ひとつとや』
さやけしや呉須を溶きたる硯石 井山幸子
すぐ乾く硯の水や青嵐 田中幾久子
すさまじや筆も硯もともに古り 鷹羽狩行
すり減りし父の遺愛の硯洗ふ 武田光子
すり癖の残る硯を洗ひけり 福田寿子
それの日も硯とりけん土佐の海 服部嵐雪
つと入りや端渓硯に眼のふたつ 加藤一竹
はるかなる水見えてをり初硯 藤田あけ烏 赤松
ひとひらは硯の海に花見席 石崎素秋
ひとり洗ふ硯の上の咀華忌かな 齋藤玄 飛雪
ほこり立つ硯の海の夏涸れたり 夏 正岡子規
ほととぎす鳴く音や古き硯箱 松尾芭蕉
ま しろなる筆の命毛初硯 富安風生
またけふも筆硯欲しや鳥雲に 森澄雄
まんさくや硯作りの谷の家 森澄雄
まんまるの雨畑硯小鳥来る 神尾久美子
ゆく年の硯を洗ふ厨かな 三好達治 路上百句
ゆづり葉の一片敷きし硯かな 飛雨
よき硯拝見甲斐の国小春 山口青邨
わが愛硯の柔肌、若水をしずくとする 荻原井泉水
わが机眠る比叡を硯屏に 日野草城
愛硯のよはひを思ひつつ洗ふ 百合山羽公
愛用の名も無き硯洗ひけり 冨田みのる
悪筆の硯洗ふはかなしきこと 後藤比奈夫
鮎落ちぬ草庵の硯あくぼ凹みけり 河東碧梧桐
鮎落ちぬ草庵の硯凹みけり 河東碧梧桐
衣川硯をころしおわりたり 阿部完市 純白諸事
遺されし筆硯座右に初句会 星野立子
遺影とは硯に映る柳かな 長谷川櫂 古志
医学の徒我もと硯あらひけり 水原秋櫻子 霜林
一机据ゑ一硯をのせ夏座敷 三浦恒礼子
一隅に一机一硯夏座敷 上田五千石 森林
一硯に卓上の冬定まれり 上田五千石『琥珀』補遺
一硯を伴ひたりし初湯かな 相生垣瓜人
一字づつ氷を出たり初硯 吐月
一滴が玉ところがり初硯 檜紀代
一滴の水に香のあり初硯 小澤満佐子
芋の葉に溜りし水を硯田に 田中冬二 俳句拾遺
芋の露硯の海に湛へけり 露 正岡子規
因幡より硯を運ぶ雁のころ 鈴木鷹夫 春の門
院々の古き硯やけふの月 雁宕 五車反古
院々の古き硯や今日の月 雁宕
雲の峯硯に蟻の上りけり 雲の峯 正岡子規
園児らの輪には入れぬ毛たんぽぽ 須藤大硯
家ひそかなるや硯を洗ひをり 石田波郷
火燵(こたつ)からおもへば遠し硯紙 沙明 古句を観る(柴田宵曲)
花器の水硯にすりて四迷の忌 松本澄子
花榊ひらきて夜の筆硯 藤田あけ烏 赤松
我が俳句不作の硯洗ひけり 長尾俊一郎
我の手に帰したる硯洗ひけり 大石暁座
我永久に遺す硯を洗ひけり 深川正一郎
海よりも陸のかがやき初硯 鷹羽狩行
海深く浚ひて硯洗ひけり 鷹羽狩行
柿の花硯に水の盛り上がり 長谷川櫂 天球
柿落葉甲斐硯師の庭埋む 山口青邨
額の花硯彫る身の前のめり 荒井正隆
梶の葉によき筆硯の用意あり 田畑美穂女
梶の葉に硯はづかし墨の糞 無腸
鴨を焼く鉄板さても硯に似て 山口青邨
寒菊や夕日に向かふ硯彫 桃隣
寒硯に茂吉遺愛の墨匂ふ 水原秋櫻子 帰心
寒凪や硯の海の忘れ墨 疋田秋思
寒梅や筆硯いよよふくよかに 星野麥丘人
寒木瓜や筆硯あらたなる思ひ 森澄雄
巌に灯して硯洗ふや女の童 会津八一
雁のへだてぞ佳けれ筆硯 齋藤玄 飛雪
顔施とふよき言の葉や初硯 富安風生
義によって命涼しき硯かな 立花北枝
菊の香に鳰も硯の水添へん 服部嵐雪
菊咲くや草の庵の大硯 菊 正岡子規
客のあと硯開きぬわが二日 石塚友二
去来忌を乾く硯の海と陸 鈴木六林男
胸さきに硯の海の十三夜 持田石映 『まぼろし』
曲水や硯に阿古の落花磨る 菅原師竹
筋書きの無き世よかりし初硯 増田斗志
金縷梅や硯作りの肩力 森澄雄
九十一の一をしつかと初硯 富安風生
句に生きて慾なき硯洗ひけり 田口雲雀
句案じて海山があり初硯 森澄雄
君が名や硯に書いては洗ひ消す 夏目漱石 明治二十九年
薫風や硯も墨もかくは欠け 久保田万太郎 流寓抄
形見分せむと洗ひし硯かな 下村 梅子
月を待つ円き硯をまるく磨り 八染藍子
献立てを日々書く硯洗ひけり 鈴木真砂女
献立を日々書く硯洗ひけり 鈴木真砂女 夏帯
硯かと拾ふやくぼき石の露 松尾芭蕉
硯かと紛ふ踏絵の減り具合 山田純子
硯する傍にうつくし白がさね 嵐雪「桃の実」
硯なほ氷のごとし鶴引きし 宇佐美魚目
硯にも昼のさびしさ松露かき 宇佐美魚目
硯に水充たして秋の意とおもふ 能村登四郎
硯の上水迸る思ひごと 石田波郷
硯の上水迸れ思ひごと 石田波郷
硯の中にちちはは見ゆる合歓の花 加藤秋邨
硯の陸風蘭の香は漂うか 赤尾兜子
硯より心を洗ふ一苦労 後藤比奈夫 めんない千鳥
硯海に顔の映れる溽暑かな 冨田みのる
硯海に泰山木の花の風 きくちつねこ「一人舞」
硯海に日の射し込める賀状書く 吉川禮子
硯海の香り失せたる六日かな 平沢茂雄
硯海の三滴賀状三枚分 宮田和子
硯師の一服春の山を見て 森田公司
硯匠雨宮弥兵衛昼端居 上野さち子
硯水の海にみなぎる淑気かな 萩原 昭
硯石どつと重たき秋の暮 飯田龍太
硯洗つてたそがれの音となる 松澤雅世
硯洗ひまだ憑きものの落ちぬ顔 能村登四郎
硯洗ひ肉声もたぬ父の文字 水鳥ますみ
硯洗ひ半日の閑あまりあり 横井迦南
硯洗ひ野分の端に波郷病む 秋元不死男
硯洗ふてのひらほどの一つ得て 神蔵器
硯洗ふは心を洗ふにもまさり 原コウ子
硯洗ふやりんりんと鳴る山水に 新田 豊
硯洗ふや落ち来る水の高きより 原月舟
硯洗ふ意地に徹して老いにけり 鈴木真砂女 都鳥
硯洗ふ雲ながれてはとどまらず 岬雪夫
硯洗ふ空しからざる日にせんと 水原秋櫻子 餘生
硯洗ふ献句短冊着きたれば 殿村菟絲子
硯洗ふ硯の海で人は死ねず 鈴木真砂女 紫木蓮
硯洗ふ己が行く末見えてゐて 鈴木真砂女 居待月
硯洗ふ妻居ぬ水をひびかせて 石田波郷
硯洗ふ水の貧しき路地に住み 鈴木真砂女 夏帯
硯洗ふ天山山脈見ゆるまで 九鬼あきゑ
硯洗ふ墨あをあをと流れけり 橋本多佳子
硯洗ふ良寛自得自在たり 田中水桜
硯彫る四五戸の村や木葉づく 富田うしほ
硯彫る店暗からず竹の春 富田潮児
硯得しに君待て扇置く心 河東碧梧桐
硯二つ重ね沈めて洗ひけり 池上浩山人
硯買ふ熊野権現の花の下 小野千枝子
硯箱に秋海棠の蒔繪哉 秋海棠 正岡子規
硯箱ふたよの月を見納めぬ 黒柳召波 春泥句集
硯箱若葉影さす座机に 小川濤美子
硯辺の青柚子いつか黄がさせる 能村登四郎
硯面の歳月の疵洗ひけり 藤井凌雪
硯屏に日盛りの草うつりけり 室生犀星 魚眠洞發句集
硯屏の陰より出でし春蚊かな 富安風生
硯屏の裸羅漢に似て書けり 中戸川朝人 尋声
肩で押す硯師の鑿に木の芽照る 芦沢一醒 『花枇杷』
狐火や一滴もなき大硯 大峯あきら
五月雨や硯箱なる番椒(唐辛子) 服部嵐雪
五月雨や善き硯石借り得たり 五月雨 正岡子規
午後の日の早くもかげり洗硯す 西村止子
御硯に触れし手の冷え伊勢姫忌 木嶋紀子
御披露目の*とう硯を手に朝の涼 松崎鉄之介
御秘蔵の硯を洗ふ小姓かな 鈴木苔花
光悦が筆硯の間の茶立虫 玉置かよ子
弘法の水硯海に初写経 高杉悟泉
紅梅や硯にも彫る梅と禽 水原秋櫻子 殉教
行く春の硯に印す梅の花 行く春 正岡子規
行春や硯にならぶ蕪村集 行く春 正岡子規
高階に硯を洗う鈴の空 鈴木六林男
高僧のかたみの硯洗ひけり 星野立子
高田石硯となれり梅匂ふ 宮津昭彦
今年またひとつの硯洗ひをり 石川桂郎
今年より吾子の硯のありて洗ふ 能村登四郎
昏れてより白を極めぬ花みづき 加賀谷硯子
佐久の句を書くべき硯洗ひけり 水原秋櫻子 蘆雁
笹鳴や芋銭旧居の大硯 綱川恵子
三月の三日硯の新らしき 高野素十
三代のくぼみ加へて初硯 若井菊生
山水の迅きに洗ふ硯かな 大橋越央子
山眠り寺の硯の大凹み 大峯あきら
散る花を墨に摺り込め旅硯 青蘿
姿よく能なき硯春の塵 星野立子
子の名前薄れし硯洗ひけり 下間ノリ
子規の忌の埃を払ふ硯箱 深川知子
子規堂の一机一硯冴返る 伊吹ぬい子
子規堂の硯の乾く春の昼 浅見優子
志存して洗ふ硯かな 池上浩山人
詩の舟や硯を洗ふ春の水 会津八一
寺建ちていまだ硯は黴びてをり 中村草田男
耳ふつて馬おとなしき夕立かな 加賀谷硯子
七夕の硯洗はば息あへがむ 石田波郷
七夕や使ひ古りたる支那硯 上田渓水
実篤忌穴あきさうな支那硯 三枝正子
若水や硯の湖に花の雲 水田正秀
若田硯彫るへ滴り間の遠し 田中英子
若楓影さす硯あらひけり 水原秋櫻子「重陽」
若楓影さす硯洗ひけり 水原秋櫻子 重陽
若楓祖父と硯を並べけり 及川隆夫
手で洗ふ硯の裏や柚子の花 藤田あけ烏 赤松
手に重き遺愛の硯冬座敷 梶浦恭子
手に触れて雨畑硯爽かや 松崎鉄之介
朱硯に散りしむ墨や庭若葉 内田百間
朱硯に葡萄のからの散亂す 葡萄 正岡子規
朱硯に露かたぶけよ百合の花 蕪村「遺草」
朱硯へ花瓶の水や冬籠 会津八一
秋風となる幾たびも硯乾し 能村登四郎
十二月小筆の増えし硯箱 伊東一升
十年の硯洗ふこともなかりけり 正岡子規
淑気はや机上の筆硯紙墨より 小田切輝雄
塾閉ぢし妻の洗へる硯かな 綾部仁喜 樸簡
春暁の星響りやまぬ大硯 黒田杏子 花下草上
春愁や硯に海といふくぼみ 有川葉子
春塵をほのかにのせて硯箱 坊城 中子
春風や書院の棚の大硯 春風 正岡子規
春風や石に字を書く旅硯 春風 正岡子規
初硯うなじをのべて磨りにけり 橋本鶏二
初硯たのしきときは黙すなり 加藤楸邨
初硯一首は小野の小町かな 池田かほる
初硯雪になる夜の墨匂ふ 銀林晴生
初硯知足常楽筆太に 村地八千穂
初硯天の青さを映しけり 長倉閑山
初硯奈良の古墨の香りけり 奥村治夫
初硯筆に朱墨を染ませけり 龍男
初硯母にしづかな刻ありて 永方裕子
初硯墨に五彩のありにけり 千石比呂志
初硯墨むらさきに匂ひけり 田中美智子
初硯磨りつつぞ声緊りゆく 楸邨
初硯命毛に墨滲みゆき 河府雪於
初秋や筆硯を恋ふ心切 池上不二子
初凧の舞天帝を唸らしむ 宮田硯水
初蝶に硯の水のあふれけり 岡本喜子
初天神欠けし硯に欠けし墨 草間時彦
初日さす硯の海に波もなし 正岡子規
初日待つかぐろきものに筆硯 鷹羽狩行
書く程に硯の乾く寒さかな 山本智恵子
書く文字のうすくて悲し硯凍て 田村了咲
書債はたすこころかなしや初硯 山口青邨
書初の筆硯拝借 女房殿 伊丹三樹彦
書初やうるしの如き大硯 杉田久女
書初や硯に映じ梅薫ず 寺田寅彦
書初や硯の水も伊勢の海 元夢
書初や父の遺愛の硯箱 萩原まさえ
徐霞客の暴に洗ひし硯かな 尾崎紅葉
傷つく日硯の丘にさくらんぼ 田川飛旅子 『山法師』
小机の遺硯水なし春闌ける 山本つぼみ
小硯に金泥かわく夏書哉 夏書 正岡子規
少しづつ山遠ざかり硯洗ふ 折井紀衣
城趾の菊に硯の瓦かな 菊 正岡子規
浄机百筆硯も百炉は一つ 山口峰玉
振袖をしぼりて洗ふ硯哉 硯洗 正岡子規
晋子の忌硯に酒を注ぎけり 織田烏不関
真黒な硯を蠅が舐めまはる 山口誓子
親と子のごとき硯を洗ひけり 八染藍子
吹き晴れて硯の水と蜆汁 攝津幸彦 鹿々集
水させば硯喜ぶ翁草 村山古郷
水仙に蒔繪はいやし硯箱 水仙 正岡子規
水仙や端渓の硯紫檀の卓 内藤鳴雪
水滴を待つ硯あり雪曇 石川桂郎
水無月も文月も憂しや墨硯 桂信子 草影
数へ日や乾ききつたる硯箱 鈴木真砂女 紫木蓮
雛の間にいつまでも黒硯箱 鷹羽狩行
澄雄来て硯咄や菊びより 角川源義 『西行の日』
摺り減りし硯洗へり業のごと 絵馬寿
摺墨と媾(あ)ふ肌匂ひ初硯 富安風生
正座して硯の乾く酷暑かな 北原登美子
正座して座右の銘や初硯 西澤読堂
生涯の一つ硯を洗ひけり 綾部仁喜 寒木
生涯の硯とおもひかつ洗ふ 竹本白飛
青墨をおろしてやめり初硯 上田五千石『天路』補遺
静軒作る硯を撫して秋の人 山口青邨
雪の句は雪もてなさむ初硯 深谷雄大
雪信が蠅うち拂ふ硯かな 蕪村 夏之部 ■ 一書生の閑窓に書す
千尋あれ硯の海も年の波 松岡青蘿
洗はるる大硯石にかへらんと 皆吉爽雨
洗ひたる机洗ひたる硯哉 硯洗 正岡子規
洗ひたる硯にほそき筆二本 高橋淡路女
洗ひたる硯の海といふところ 杉浦 東雲
洗ひたる硯の上の試めし書き 阿波野青畝
洗ひたる硯の面の遊仙図 阿波野青畝
洗ひたる硯を磨れば墨の虹 三星山彦
洗ひたる硯匂ふに任せけり 相生垣瓜人
洗ひては青鱗めづる硯あり 水原秋櫻子 殉教
洗ひもせで帳場硯や二十年 升本翠華
洗硯す晩年はかく寂びたらむ 林翔
洗硯のゆくへ迷へる墨一縷 能村登四郎
洗硯の一戸球磨川べりにあり 神尾季羊
洗硯の雲にかがやき戻りたり 矢野典子
洗硯の後棒硯の事あらむ 相生垣瓜人
洗硯やそよぐ楓に雨蛙 水原秋櫻子 餘生
洗心の一刻を措く初硯 西岡伸実
船津屋に借りし硯の夜長かな 八木林之介 青霞集
早春の硯に匂ふ水の色 白井恭郎
早苗饗のひたぶる風に硯あり 田中裕明 花間一壺
束脩の薄き硯を洗ひけり 阿波野青畝
袖濡れて硯洗へり大三十日 水原秋櫻子 晩華
存問の減りゆく硯洗ひけり 上田五千石『天路』補遺
多過ぎし二百十日の硯水 鈴木鷹夫 春の門
大雁塔まなうらにあり初硯 丸山比呂
大硯を引きずり出して洗ひけり 加藤国彦
大小の筆の穂白し初硯 中川久子
大西洞老坑水巌初硯 飴山實 『次の花』
大風の吹きめぐりをり初硯 原田喬
滝壷に硯彫る石拾ひ来る 矢花作一
滝殿のしぶきや料紙硯箱 滝 正岡子規
誰がもちし硯ぞ今日をわが洗ふ 水原秋櫻子
誰が持ちし硯ぞ今日をわが洗ふ 水原秋櫻子 霜林
端渓といふも怪しき初硯 藤田枕流
端渓の硯の海に雷近し 阿部みどり女 『雪嶺』
端渓もは歙硯(きふけん)もあり筆始 森澄雄
遅き日や硯の上のかへりごと 阿波野青畝
遅き梅座に仰ぎもし硯職 木村蕪城
仲秋の硯師の爪伸びやすし 黒田杏子
朝寒の硯たひらに乾きけり 石橋秀野
朝寒み筆硯用意寒山寺 阿波野青畝
朝日さす忌日の硯すりにけり 室生犀星 魚眠洞發句集
長き夜の硯にうつるともし哉 夜長 正岡子規
滴らす水蒼かりし初硯 能村登四郎
鉄線花硯池に三片真悲しや 今井竜蝦
天に河地に川硯洗ひけり 飯沼三千古
徒に凍る硯の水悲し 寺田寅彦
冬の夜の硯乾かず更けにけり 日野草城
凍解けや硯の水もつかふほど 蝶夢
唐墨の伸び匂やかに初硯 羽村野石
桃青忌朱硯ひとつ欲しと思ふ 槐太
灯火親し鴫立庵の大硯 高島和子
鈍きもの先づ氷なる硯哉 几董
鈍きもの先づ氷るなる硯かな 几菫 五車反古
鈍きもの先氷るなる硯かな 高井几董
二人にて硯は一つ洗ひけり 池上不二子
日のあたる硯の箱や冬の蠅 冬の蠅 正岡子規
日の端の硯の海の二日かな 本庄登志彦
日没の空の深さや初硯 浜たま子
日雷写経の硯すぐ乾き 河野美保子
如法水求めて硯洗ひたまへ 阿波野青畝
葱汁に筆硯甚だ多祥なり 田森柳渓
年行くや耳掻光る硯箱 普羅
年逝くや硯洗ひしあとの刻 森澄雄
年々や硯を洗ふ墨の滓 佐藤紅緑
濃淡の二硯に待たれ夏の雨 上田五千石『天路』補遺
梅が香や英治遺愛の大硯 寺崎美江女
梅雨に入る硯の海に目をやりて 井上トシ子
蝿一つ良夜の硯舐(ね)ぶり居り 川端茅舎
白湯呑んで仕事納めの筆硯 佐藤素人
発心のあやふき硯洗ひけり 上田五千石『琥珀』補遺
鳩寿たり火燵の上の筆硯 阿波野青畝
筆すてぬ松こそよけれ初硯 蓼太
筆とるは硯やほしき児桜 服部嵐雪
筆硯に一人親しむ灯火かな 増田月苑
筆硯に及べる喜雨のしぶきかな 日野草城
筆硯に儒者在る如く雪明り 中村幸枝子
筆硯に親しむことも梅雨籠 山田弘子 こぶし坂
筆硯に多少のちりも良夜かな 飯田蛇笏
筆硯のそのままにある夕ざくら 山口青邨
筆硯の一間ありけり夏木立 山本洋子
筆硯の小さき黴の書院かな 大峯あきら 宇宙塵
筆硯の正しく置かれ青簾 本岡歌子
筆硯の部屋に牡丹の風入るる 稲荷島人「続夏雲」
筆硯の夜長き水を足しにけり 細川加賀 『傷痕』
筆硯ペンと鉛筆喜寿の春 後藤比奈夫
筆硯や月の筵に置かれたり 池内たけし
筆硯や新草離離と垣の内 下村槐太 光背
筆硯をはなれかげろふ踏みにけり 宇佐美魚目
筆硯を調ふる間もひとしぐれ 上田五千石『琥珀』補遺
筆硯大暑の眉を張りにけり 細川加賀 『生身魂』
筆持つて硯の乾く眠さかな 幸田露伴
筆多き硯の箱や冬籠 冬籠 正岡子規
百ばかり年といふ字を初硯 斯波園女
氷れる硯に筆なげて布団にもぐる尾崎放哉 (病中) 大正時代
病む人に雨の小やみの硯蝶 星野立子
病床に膝揃へけり初硯 石田波郷
病床の膝揃へけり初硯 石田波郷
夫亡くて子ありて洗ふ硯かな 鈴木真砂女 夕螢
富士川の穂芒白し硯彫る 山口青邨
福寿草さいて筆硯多祥かな 鬼城
福寿草硯にあまる水かけん 晩得
福寿草咲いて筆硯多祥かな 村上鬼城
物好や硯洗ふて鮓の圧 尾崎紅葉
文机と硯箱のみ葭障子 経谷一二三
文月や硯にうつす星の影 文月 正岡子規
文弱のいのちの硯洗ひけり 上田五千石 天路
片手では持てぬ硯を洗ひけり 鈴木 榮子
返礼の二三したたむ初硯 三田巳乗
蓬莱にテーブル狹き硯哉 蓬莱 正岡子規
墨おきて硯の海も水の秋 鷹羽狩行 七草
墨しかと離さぬ硯洗ひけり 鷹羽狩行
墨の香の殊に匂ひて初硯 中川喜久栄
墨をする硯の海に月明かり 寺島たみ子
墨流れ雲龍となる硯洗ふ 山口青邨
本の山硯の海や冬こもり 冬籠 正岡子規
盆栽の梅散りかゝる硯哉 梅散る 正岡子規
磨る墨の金粉浮きて初硯 鷹羽狩行
万葉の歌の赤駒初硯 布施まさ子
名を書くと硯洗ひし誕生日 八木三日女
名月やそのうらも見る丸硯 千代尼
名月や此の松陰の硯水 黒柳召波 春泥句集
名硯にならざりいくら洗ひても 後藤比奈夫
命名のための硯を洗ひけり 三村純也
明け易し硯離れぬ使ひ墨 秋元不死男
毛氈に据ゑて二日の硯かな 中村祐子
夜の秋の硯を濡らす一滴 櫛原希伊子
夕永くなりぬ堆朱の硯箱 大野林火 方円集
夕顔に旅と名のつく硯かな 夕顔 正岡子規
夕桜鬱然として硯洗ふ 橋閒石
夕星のころ洗硯の父なりし 能村登四郎
余震なほ硯を洗ふいとまにも 菅原和子
葉牡丹の座に薄明の筆硯 石原舟月
葉柳や硯をあらふ水浅し 会津八一
落魄のおもひの硯洗ひけり 上田五千石『天路』補遺
陸のかくくぼみし硯あらひけり 西山誠
立縞のお召し袷衣や掛硯 田口一穂
旅の吾に妻や硯を洗ひをらむ 星野麦丘人
旅硯庭の桔梗は咲きにけり 桔梗 正岡子規
緑硯や日あたる畦の冬緑 森澄雄
霊山の雪解おろしに硯磨ぐ 上田五千石『森林』補遺
炉の灰の降るに硯をいとひけり 河東碧梧桐
炉の名残墨交る朱硯洗ひけり 柴田紫陽花
露けしや重ねてしまふ墨・硯 鷹羽狩行
露草の露をいただく土佐硯 黒田杏子 花下草上
六人に硯一つの寒さかな 会津八一
雙池硯といふなり書初の硯なり 水原秋櫻子 蘆雁
恃むなる硯洗へる飛雪かな 石田波郷
曉の氷すり碎く硯かな 氷 正岡子規
楸邨忌硯の海を満たしをり 細田恵子
橙の花入れてある硯箱 岡本清子
濤音の天より硯洗ひけり 菅原多つを
甃硯のごとき良夜かな 川端茅舎
疵数多の無銘硯も洗ひけり 岩本光曜
翡翠の去来す硯洗ひけり 水原秋櫻子 帰心
芍薬は散りて硯の埃かな 芍薬 正岡子規
菫咲き厳寒の御硯井戸 川端茅舎
藪入や父が遺愛の硯箱 沼澤石次
蚯蚓鳴く遺愛の硯中くぼみ 安田優歌
蜩や硯の奥の青山河 加藤楸邨
蠅一つ良夜の硯舐ぶり居り 川端茅舎
鵯のこゑうみに溺るる初硯 岡部義男
以上
あたらしき筆を噛む歯の寒さかな 久保田万太郎 流寓抄
いのち毛をすりへらす筆年来ると 平井さち子 鷹日和
いまわまで筆をはなさず萩惜しむ 富田潮児
うぐひすや筆噛んで書く詫手紙 秋元不死男
おほまかに筆洗ひたる玉子酒 本宮銑太郎
おもひきり筆が墨吸ふ油照り 小川原嘘帥「日輪」
かねて見し不折の筆の梅があり 河東碧梧桐
きのふ古し遺筆に活けてこぼれ萩 渡邊水巴 白日
ぐぐぐいと引ける渇筆お風入れ 高澤良一 燕音
くれなゐの色紙を選ぶ筆始 野見山ひふみ
けさの秋硯に筆のすべり哉 今朝の秋 正岡子規
けふ使ふ雛のひとつや有馬筆 森澄雄
ことごとく夫の遺筆や種子袋 竹下しづの女
この花を祇園守といふ謂れ 後藤比奈夫
こほろぎを夫が聴く夜は筆おいて 鷹女
さへづりや筆の走りて余白の美 郡山マサ子
しぐるるや鉄筆捨てし黙ふたつ(川島四天居にて筆耕) 細川加賀 『傷痕』
しくるゝや物書く筆の薄にじみ 時雨 正岡子規
しばらくは初音と聞けり筆止めて 畑 道子
すさまじや筆も硯もともに古り 鷹羽狩行
セザンヌの筆の余白に秋の声 岡田 貞峰
そこ冷えの夜ごとは筆のみだれけり 石橋秀野
その筆の日課観音実朝忌 水原秋櫻子 蘆雁
そもそもといふ行儀にて初かはづ 梅室
そもそもと風の吹けり門の松 完来
そもそものいちぢく若葉こそばゆく 小沢信男
そもそものはじめは紺の絣かな 安東次男 裏山
そもそもの初めがありて近松忌 岩淵喜代子 硝子の仲間
そもそもは都踊で見染めけり 日野草城
そもそもは菱の実採つて呉れしより 大石悦子 聞香
そもそもは夜店のひよこ羽抜鶏 若月勝男
たまきはるいのちのいの字筆始 上田五千石 琥珀
たま祭る料理帳有筆の跡 炭 太祇 太祇句選
ちびし筆湯呑に立てし施餓鬼寺 川瀬清子
ちび筆に俳諧うとし春の風邪(句評をもとめられて) 『定本 石橋秀野句文集』
つくづくし筆一本の遅筆の父 中村草田男
どの筆を執りても夏書疲れして 阿波野青畝
ともし火に氷れる筆を焦しけり 大魯 五車反古
ならべるは細筆ばかり雛作 森田 峠
なりはひの選句染筆そぞろ寒 鷹羽狩行
はま弓やそもそも須磨の物語 完来
ひた走る大文字の火の一の筆 岡本眸
ひと筆に文をむすびて藤の花 佐藤美恵子
ひと筆を素焼に賭けて爽やかに 鈴木真砂女 夕螢
フリージアに陶師が筆の愛陶記 桂樟蹊子
ま しろなる筆の命毛初硯 富安風生
ましろなる筆の命毛初硯 風生
またけふも筆硯欲しや鳥雲に 森澄雄
まづしづく落ちて大書や筆始 森澄雄
まづ鯛と筆を立てけり恵比須講 中村史邦
まろびたる筆が墨曳く油団かな 飯田京畔
み仏千手、筆をもつ御手もあるべしや 荻原井泉水
もともとのひかり押さへて後の月 鷹羽狩行
もともとはトマトケチャップ寒の闇 高野ムツオ 雲雀の血
やごとなき筆とおぼしき歌留多かな 三村純也
ゆく春や筆重き日は海も鳴り 鈴木真砂女 夏帯
ゆづり葉や口にふくみて筆始 其角 (手握蘭口含鶏舌)
ゆふだちや筆もかハかず一千言 蕪村 夏之部 ■ 雙林寺獨吟千句
よき枕詞より書く筆はじめ 能村登四郎
リスの子に筆の穂ほどの芽からまつ 吉野義子
リハビリの筆しつかりと初便り 鶴田 弘
わらんべの寿詞(よごと)はかなし筆竜胆 富安風生
わらんべの寿詞はかなし筆竜胆 富安風生
わりなきは選句染筆実千両 鷹羽狩行
われを見る机上の筆や秋の風 飯田蛇笏
わんぱくや先づ掌に筆はじめ 一茶
をだまきの花やみやげに有馬筆 森澄雄 空艪
庵主の禿筆を噛む試筆かな 村上鬼城
伊呂波など散らす夏書の筆馴らし 上田五千石『琥珀』補遺
謂れなき椎佇ちつくす喉の奥 増田まさみ
遺されし筆硯座右に初句会 星野立子
遺書かきし筆そのままに秋の暮 小林康治 『虚實』
磯振りや筵の上に夏書筆 加藤耕子
一といふ字三といふ字の筆始め 高野素十
一といふ字人といふ字や筆始め 高野素十
一の字に己の見えて筆始 田淵宏子
一の字のかすれかぐはし筆始め 鷹羽狩行
一字なほにじみひろごる試筆かな 爽雨
一振りの刀の由来藤の花 澤谷文代
稲の香が町をつつみて筆まつり 亀井朝子
芋掘りて疲れたる夜の筆づかひ 石田波郷
雨の香の紙筆におよぶ春の暮 岡本眸
雨水くむ筆の林に鳳(ほう)の雛 上島鬼貫
雨風の花の首都とも謂ひつべし 阿波野青畝
丑紅の唇にちよとかむ筆のさき 阿波野青畝
瓜人筆「芋の図」を掛け無月なり 能村登四郎
雲上に筆執るは誰 桐の花 伊丹三樹彦
永き日や雑報書きの耳に筆 日永 正岡子規
永日のそもそも何でこの病ひ 高澤良一 鳩信
猿飛といふは涼しき渓を謂ふ 阿波野青畝
縁先にさしおく筆や人丸忌 富安風生
縁端にさしおく筆や人丸忌 富安風生
横書に心の小窓筆始 後藤比奈夫 めんない千鳥
襖絵の由来を聞きし糸桜 本保志津子
鴬の乙音をまつや筆置きて 井上井月
黄梅の弾ねる風下筆洗ふ 菅裸馬
沖荒の見ゆる二階に試筆かな 茨木和生 倭
牡丹に寄す侍従長筆大御歌(おおみうた) 高澤良一 宿好
牡丹の芽筆ほどといふしか思ふ 細見綾子 曼陀羅
牡丹咲く庭の制札誰が筆ぞ 井上井月
仮名文字の筆遅々として梅雨深し 國岡錫子
加賀友禅筆より草の花生まる 野崎ゆり香
夏山に向ひて稿の筆を擱く 高野素十
夏書の筆措けば乾きて背くなり 橋本多佳子
夏痩といへど筆陣逞しき 阿波野青畝
夏草のダチュラ林と謂ふべかり 阿波野青畝
夏濤の発端純白立志めく 香西照雄 素心
嫁が渕謂れ哀しき秋の水 金澤俊子
家計簿のページはじまる筆始 蕪木啓子
家古び筆立にある秋扇 清水鵲木
火の筆勢そのままに雪大文字 鷹羽狩行 八景
花つけてへくそかづらと謂ふ醜名 片岡亜土
花やこれ君が常盤の筆のあと 幸田露伴
花や咲く筆に机に雲見草 上島鬼貫
花榊ひらきて夜の筆硯 藤田あけ烏 赤松
花襲ね玉葛と謂ふべかりけり 阿波野青畝
花満ちて冷ゆ僧正の筆一本 黒田杏子 花下草上
花茗荷しばらく筆を断たんとも 上田五千石『天路』補遺
我画をよくす筆を下せは蕨かな 尾崎紅葉
我戀や筆のはこびも蔦かつら 蔦 正岡子規
画仙紙の天地はかりて試筆かな 富田潮児
賀状のみのえにしの友の筆寂びぬ しげ子
雅仙紙や試筆の墨の飛ばば飛べ 阿波野青畝
懐手無為責められる謂れなし 伊達 天
懐柔の筆意読みをり*ごりを喰ふ 石原八束 『人とその影』
海一句金短冊に筆始 有働 亨
海山や都の筆に雲見草 上島鬼貫
絵付筆壺にいろいろ鳥曇 黒木千代子
貝母咲き露風の筆を祀る寺 山田弘子 懐
橿原の宮の記帳が筆始 滝本魚顔女
梶の葉や筆は思ひをつくさざり 島田五空
渇筆を絶え絶えと継ぐ吉書かな 大石悦子 百花
乾かざるままに筆巻く獺祭忌 ふけとしこ 鎌の刃
寒巌五彩あり雪舟筆を負うて来る 荻原井泉水
寒灯下筆置く音も響きけり 松田美子
寒梅の下に筆焚く煙かな 尾崎紅葉
寒梅や筆硯いよよふくよかに 星野麥丘人
寒明の雲をほぐせる筆づかひ 峯尾保治
完成が発端赤児の指紋すずし 中村草田男
干蒲団日和と妻に謂はれをり 高澤良一 さざなみやつこ
還暦と謂ふはにかみの屠蘇を酌む 前田忠男
岩山の岩より咲きぬ筆竜胆 中島いはほ
贋筆の達磨ふすぼる蚊遣かな 蚊遣 正岡子規
贋筆をかけて灯ともす夜寒哉 夜寒 正岡子規
雁のへだてぞ佳けれ筆硯 齋藤玄 飛雪
雁渡老いて筆絶つ人のこと 藤田湘子 てんてん
頑に庄屋の筆や毛見の帳 長谷川零余子
幾変遷~や草紅葉 高野素十
鬼城忌や遺筆の幅は聾の句 伊沢三太楼
鬼城代書の筆は足鍬の類なりけん 中村草田男
鬼灯の顏や四つ子が筆の跡 鬼灯 正岡子規
亀鳴くと孤りの筆を折られけり 黒田杏子 花下草上
偽筆芭蕉かけてをかしや暮の秋 山口青邨
久々に筆墨の用涼風裡 飯田龍太
灸点をぬるや二月の筆初 二日灸 正岡子規
京祇忌のしばらく筆の遊びせむ 大石悦子 百花
胸で拭き筆柿を食ふ泣きながら 森田公司
興来ねば筆持つ指も夜寒かな 日野草城
曲水や盃の舟筆の棹 曲水 正岡子規
極細の筆を運びて花は葉に 佐藤美恵子
近代に踏み入るとして廃藩の大事に遭ひし祖父の筆塚 齊藤史 風翩翻
金箔に墨弾かるる試筆かな 浅井陽子
金屏に筆投げつけつ時鳥 時鳥 正岡子規
金屏や賢き妹が筆始 会津八一
九と刎ね一と引きすゑ試筆かな 富安風生
句を練るも筆を舐むるも花下の所作 阿波野青畝
愚図愚図の筆あはれめや冬の鵙 上田五千石 天路
空海と決めある筆や筆始 後藤比奈夫
栗虫の麻呂と謂へるが出できたり 大石悦子 群萌
君が代や猶も永字の筆始 乙由
薫風や魯迅手沢の筆二本 鷹羽狩行
傾城が筆のすさひや燕子花 杜若 正岡子規
啓蟄や人はもともと一面二臂 北野民夫
鶏頭の吹きかしぐなり筆意かはる 加藤秋邨
鶏頭花筆を立て君が病よし 西本一都
月も雪も何か残らう花も筆に 上島鬼貫
元旦の日記を筆の初かな 会津八一
古稀にして細楷をよくす筆始 四明
古紙えらび古墨えらびて筆始 町 春草
古雛の由来を歌ふごとく言ふ 堀口星眠 営巣期
古筆も洗ひて御用納かな 山県瓜青
孤剣に似たる筆一本も芽吹く日ぞ 原子公平
枯菊や洗ひし筆を軒に吊り 遠藤梧逸
枯萩を筆の軸とし萩筆と 山口青邨
湖筆欲し筆鶏頭を見てをれば 阿波野青畝
五倍子干して小さいながらも筆問屋 山田緑女
吾れ画を善くす筆を下せば蕨哉 尾崎紅葉 紅葉山人俳句集
御影供や筆塚にくる朝雀 滝上登美子
御命講や寺につたはる祖師の筆 御命講 正岡子規
口切や講肝煎りを筆がしら 水田正秀
口切や講肝煎を筆がしら 正秀 俳諧撰集「有磯海」
弘法の謂れの山を恵方とす 武石花汀
弘法の投筆かなに大文字 大文字 正岡子規
弘法の筆に新涼おぼえけり 阿波野青畝
弘法筆砂丘にひろふ秋風裡 角川源義
紅梅にほむらのなびく筆供養 川崎慶子
紅筆に口つき出して七五三 水口泰子
紅筆に薄紅梅を染めて見ん 紅梅 正岡子規
紅筆の朝顔風に咲きにけり 朝顔 正岡子規
紅葉焚くときに小筆も二三本 蓬田紀枝子
考へて筆かはきけり日の短か 中戸川朝人 星辰
荒筆と乱句を年の始めとす 和田悟朗
行かばわれ筆の花散る処まで 散桜 正岡子規
行秋や語源に多きヘブライ語 対馬康子 吾亦紅
合い性の筆は一本 白椿 伊丹三樹彦
合性の筆は一本 白椿 伊丹三樹彦 花恋句集二部作 花仙人
黒鉛筆赤鉛筆や春の宵 高野素十
黒土によき句かかばや葱の筆 中勘助
腰浮かし試筆くたびれ易きかな 阿波野青畝
今日二度の帰宅に筆が咲いている 池田澄子
今年竹筆とればはや退路なし 野澤節子 鳳蝶
今年竹筆取ればはや退路なし 野澤節子 『鳳蝶』
左右に鮎焼く火清しと謂ふべかり 飯島晴子
妻の筆ますらをぶりや花柘榴 沢木欣一 往還
才筆に歯序はあらざり曼珠沙華 橋本夢道 良妻愚母
採点記帳筆おもむろに弓始 山口青邨
細書きの筆買ひに出る燕子花 岡田菫也
細筆を買うて戻るや涅槃雪 鷹羽狩行
菜種御供梅の瑞枝の筆買へり 永田由子
菜種梅雨筆とどこほる訃への文 阿部千恵子
笹の子のうす紫や小筆ほど 野村泊月
笹鳴や職場に知己ある謂なし 中村草田男
三寒の四温兆しぬ筆買ひに 及川貞
山荘客を見すして大臣の試筆哉 尾崎紅葉
山鳥に會ひたきひとの筆不精 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
散らばりし筆紙の中の櫻餅 松本たかし
残暑なほペン皿にペン筆立に筆 鷹羽狩行
士筆野に妹も母の眼細めがち 平井さち子 完流
子が来ると夏書の筆を措きにけり 関戸靖子
子規堂の筆のちびたる暑さかな 田中義孝
師の筆のゆきつ戻りつ梅雨の稿 斉藤夏風
指うるはしきよごれや筆始め 鷹羽狩行
死ぬとしもひとつ取たよ筆の跡 炭 太祇 太祇句選
死ぬまでの名をいくたびの筆初め 池田澄子
歯あらはに筆の氷を噛ム夜哉 與謝蕪村
歯を借りて筆噛みおろす残暑かな 鷹羽狩行
歯豁(あらは)に筆の氷を噛む夜哉 蕪村
歯豁に筆の氷を噛む夜かな 蕪村
時鳥筆を投じて起たんとす 森鴎外
次の間も畳明るし筆始 柴田佐知子
軸赤き小筆買ひけり事始 小林篤子
七夕や廃れしものに筆と夢 鷹羽狩行
七夕や筆の穂なめし脣の墨 高橋淡路女
蛇骨地蔵の由来身に入む日暮どき 詫摩まつ子 『卒寿』
若水の一滴に筆おろしけり 水田むつみ
若竹の筆になるべき細り哉 若竹 正岡子規
手凍えてしばしば筆の落んとす 凍る 正岡子規
手凍えて筆動かず夜や更けぬらん 凍る 正岡子規
修善寺の面の由来の露けしや 河野石嶺
秋に痩せて恨みの筆のあと細し 秋 正岡子規
秋の句書く辞表を書きし筆をもて 安住敦
秋の蝉二三の筆を洗ひけり 藤田あけ烏 赤松
秋海棠様にならぬと筆投げ出し 高澤良一 素抱
秋晴るるごとくに座右の萩の筆 後藤比奈夫
終章は白い頁で筆を擱く 都留元汰 「オール川柳」
十丈の蓮開くや筆の尖 蓮の花 正岡子規
十団子に添えて十団子由来状 高澤良一 宿好
十二月小筆の増えし硯箱 伊東一升
宿坊に高野豆腐の由来きく 中野つぎの
淑気はや机上の筆硯紙墨より 小田切輝雄
出替りや乳の目利きが一の筆 斯波園女
術後いぢらしや凍む手を筆落つる 秋元不死男
春の庵筆より重きものは無し 小澤克己
春の蚊や舞の由来に大柱 古舘曹人 能登の蛙
春の筆かなしきまでに細かりし 田中裕明 櫻姫譚
春の露そもそも月の宵曇り 飯田蛇笏 白嶽
春はあけぼのそもそもは堯舜禹 岩城 久治
春やむかし路標の仮名も山陽筆 富安風生
春ヤ今浜荻筆ノ穂ノ長キ 春 正岡子規
春ヲ湛フ浜荻筆ノ穂ノ長キ 春 正岡子規
春暁の竹筒にある筆二本 飯田龍太
春愁やささくれだちし筆の先 落合芳子
春焼の竹筒にある筆二本 飯田龍太 忘音
春深し女の筆をとりて書く 山口青邨
春蘭や無名の筆の俗ならず 春蘭 正岡子規
春竜胆ひらかな書きの筆ほどに 山田弘子 こぶし坂以後
初硯知足常楽筆太に 村地八千穂
初硯筆に朱墨を染ませけり 龍男
初桜筆やはらかく持ち直す 田中幸雪
初笑ひ笑つて死ねと今謂はず 小出秋光
初雪の便り卒寿の母の筆 杉本寛
初雪や船筆削ることもして 星野麥丘人
初天神兼ねて筆塚供養とよ 石塚友二
初冬や石油で洗ふ絵の具筆 栗林千津
初日待つかぐろきものに筆硯 鷹羽狩行
初筆の金短册の墨をはね 能村登四郎
初富士や雪の筆勢麓まで 染谷彩雲
初鵙の裏山に鳴く筆まつり 山岡綾子
書きし字を離れし筆や秋燈火 嶋田摩耶子
書きなれて書きよき筆や冬籠 冬籠 正岡子規
書き了へて梶の葉に置く小筆かな 山本京童
書ぞめをせし筆ついで便り書く 星野立子
書屋あり実梅落つ音筆擱く音 松本たかし
書初におろす白穂の奈良の筆 きくちつねこ
書初のわれをなぶれる有馬筆 大石悦子 百花
書初の筆の力の余りけり 稲畑汀子 汀子第三句集
書初の筆もおろさず病み籠る 寸七翁
書初の筆を鎮めて納めけり 稲畑汀子
書初の筆硯拝借 女房殿 伊丹三樹彦
書初の筆勢富士へ韻きけり 小川原嘘帥
書初めを明日に筆の穂の尖り 鷹羽狩行
書初や七十歳筆摂州住 宗因
書初や筆勢勁き福一字 青木愛子
女學生御見合ひ否む謂(いひ)も汗 筑紫磐井 婆伽梵
除虫菊そもそも蚊取り線香は 高澤良一 随笑
小さき蟻這ふ梶の葉に筆をとる 大橋桜坡子
小説の発端汗の捨切符 藤田湘子(1926-)
小筆の穂なだめてをれば雁の声 鷹羽狩行
晶子忌の大事にしまふ筆一本 禰寝雅子「未来図合同句集」
松蝉や余白大事に筆運ぶ 坂田美代子
焼筆で飯を食つゝ冬篭 一茶 ■文化十四年丁丑(五十五歳)
鐘由来何はともあれ除夜を撞く 阿波野青畝
鞘ながら筆もかびけりさつき雨 永井荷風
鞘を出し筆の白穂も夜寒かな 日野草城
丈山の渇筆黴びず学甫堂 富田潮児
譲られし扇に虚子の筆の跡 伊藤英子
色紙や色好みの家に筆はじめ 遊女-利生 俳諧撰集玉藻集
色鳥の声こぼれゐる筆供養 宮川杵名男
蝕ひし母の筆抽出にあることを秋の屋上に居て思ひ出づ 斉藤史 『ひたくれなゐ』
寝酒などもともとやらぬ夜の秋 高澤良一 素抱
心こめて筆試みることしかな 白雄
心こめて筆試ることしかな 加舎白雄
心太文字の由来を聞かれけり 横原律子
新しい筆がなじんで朧かな 大石悦子 群萌
新年の菓子の由来は御所ことば 山下青希
神やしる試筆の文字のすみにごり 信徳
酢海鼠や桂郎酒筆讃へつつ 福永耕二
水茎の馬刀(まて)かき寄せん筆の鞘 服部嵐雪
水茎の馬刀かきよせん筆の鞘 服部嵐雪
水茎の馬刀かき寄せん筆の鞘 嵐雪
水仙と唐筆と売る小店かな 河東碧梧桐
水仙と唐筆を売る小店かな 河東碧梧桐
水仙や試筆のあとの緋毛氈 久保より江
睡たさよ筆とるひまの春の雨 室生犀星 犀星発句集
睡蓮の水すまば筆を洗ふべく 会津八一
酔ふままに羽織の裏を筆始 荷風
酔筆と人は見るらむ吉書かな 相生垣瓜人
数の子や鰊もともと青ざかな 石塚友二
雛の日の筆を買ひたるのみに暮る 関戸靖子
寸心忌穂先減りたる竹の筆 志奈子
征きし夜の露を便の筆はじめ 加藤秋邨
整はぬ初音に滲む筆のあと 中野静枝
逝く秋や夫が遺愛の筆太き 桂信子 月光抄
青丹よし筆墨を買ふ木の芽どき 森澄雄
青邨筆実朝公や端午の床 山口青邨
石に絞る香や橘の筆の汗 浜田酒堂
石庭の謂れ露けき日本語に 高澤良一 宿好
赤芽がし筆師とわかれ雨の湖 角川源義
接木せしばかりの庭を分筆す 本郷桂子
折からの野火を神話の発端に 鷹羽狩行
雪しぐれして空海の太き筆 羽田れい
雪の懸巣霊泉由来つたへけり 水原秋櫻子 殉教
雪虫や日を重ねつつ筆不精 展宏
扇おき筆を執りては海を見る 山口青邨
洗ひたる硯にほそき筆二本 高橋淡路女
洗ひ干す筆のいのち毛去年今年 松本可南
洗ふ筆よりさつと墨水の秋 鷹羽狩行
染寺の細筆下ろす秀野の忌 山田春生
漸くに筆紙得し戦信とかや 伊丹三樹彦
疎んぜし筆を洗ふも年用意 上田五千石『森林』補遺
双魚忌の小筆洗ふも露けしや 松本 久
掃初のそもそも塵の出る処 阿波野青畝
窓にとぶ都鳥あり筆始 大橋桜坡子
草むらに筆塚があり蛾が飛んで 山口青邨
草々の筆の達磨も忌日かな 菅原師竹
蒼天の夢を淋漓と筆始め すずき波浪
足よりも筆の衰へ鬼やらひ 清水基吉
大秋と謂ひ早世す曼珠沙華 飯田蛇笏
大小の筆の穂白し初硯 中川久子
大滝の音純白と謂つべし 深川正一郎
大津絵の筆のはじめは何仏 芭蕉 (三日口を閉て、題正月四日)
大津絵の筆のはじめやなに仏 芭蕉 芭蕉庵小文庫
大津絵の筆の始めは何仏 芭蕉
大伯父の移住の由来震災忌 島田悦子
大伴の三つ物かかむ筆はじめ 大江丸
大筆にかする師走の日記かな 師走 正岡子規
大文字の筆勢生かす残雪よ 鷹羽狩行
大和仮名いの字を児の筆始め 蕪村
拓本とる直哉の筆あと柳散る 川端静子
谷中より筆屋に寄りて夏の月 石嶌岳
誰が筆のその紅や懸想文 松根東洋城
炭の香や僞筆の虎の寝ぼけ面 会津八一
短日の灯をともす間の筆を措く 夜半
短夜の筆そのまゝの御仏 高野素十
端渓もは歙硯(きふけん)もあり筆始 森澄雄
端正に水打ち筆屋店開く 岩木秋水
断崖や絶望のために由来絶景 橋本夢道 無禮なる妻抄
地下茎の絆をたもつ筆の花 相澤乙代
竹筆のうすき夢の字谷崎忌 三宅芳枝
中元や萩の寺より萩の筆 井上洛山人
虫干に蕪村の偽筆掛りけり 土用干 正岡子規
帳書や先生筆を振はれたり 松根東洋城
朝から立つ虹が発端立話 高澤良一 暮津
朝寒み筆硯用意寒山寺 阿波野青畝
朝蝉や筆をしづかに假名日記 筑紫磐井 野干
朝涼の筆を走らせずに運ぶ 茨木和生 往馬
鳥雲に色紙短冊筆買つて 鈴木真砂女 居待月
沈丁の風に吊すや洗ひ筆 大石悦子 百花
椿や白椿や筆は葬り反故は焼く 荻原井泉水
鉄つくる固き指もて筆始 沢一三
鉄線を活けて有馬の筆作り 大坪景章
鉄砲の変遷見せて武具飾る 二塚元子
天界の母は筆まめ落し文 石川北辺子
天照大神そもそもの初紅葉 渡辺恭子
天地なき金の色紙に筆始め 澤田緑生
天地はもともと一つ牡蠣料理 高野ムツオ 雲雀の血
天平の祝ぎ歌うつす筆はじめ 奥田とみ子
田亀くわがた有りマスと筆太に 梁取久子
杜甫の詩の山河に遊び筆始 宇佐美恭子
登りきて筆塚前は春の海 安田郁代
倒れ木の臥す林あり筆竜胆 石田波郷
冬ざれや花のごとくに絵付け筆 鷹羽狩行
冬ぬくし子規の遺筆の玩具帖 有馬朗人 天為
冬の虹神はもともと好色な 鈴木伸一
冬の日の筆の林に暮れて行く 冬の日 正岡子規
冬塩田とひとの謂ふなる幽けさよ 佐野まもる 海郷
冬芽見て筆の不精を守り神 小檜山繁子
冬座敷筆子産湯の井戸が見ゆ 岡部六弥太
凍てとけて筆に汲み干す清水かな ばせを 芭蕉庵小文庫
凍て解けて筆に汲み干す清水哉 松尾芭蕉
凍どけて筆に汲干す清水かな 芭蕉
凍みる中そもそも三井の鐘由来 高澤良一 燕音
凍筆をホヤにかざして焦しけり 凍る 正岡子規
投げ入れの点描の筆 藪椿 伊丹三樹彦
桃の花筆筒鳴らし駈けゆきし 木下夕爾
燈火親しペンより筆をもちなれて 鈴木真砂女 夏帯
豆飯に呼べど画室に筆おかず 皆吉爽雨
道元元元(もともと)冬日親鸞も亦また 人生 永田耕衣
禿筆は 他人無用の 白椿 伊丹三樹彦
禿筆を束ね捨てけり秋の蝉 波多野爽波 『骰子』
禿筆を塚に築きて梅の花 梅 正岡子規
読初の葩餅の由来かな 大橋敦子
読初めは干菓子に添ひし謂れ書 永井東門居
読初やそもそも志斐の強語 阿波野青畝
奈良筆の細きを撰りぬ萩にふれ 岡崎ゆき子
二三本土筆生えけり池の端 土筆 正岡子規
二紙三紙いよゝ書き劣る試筆かな 志田素琴
日に梅よ思はず恋の筆はじめ そめ 俳諧撰集玉藻集
日ノ永キ浜荻筆ノ穂ノ長キ 日永 正岡子規
日を以て數ふる筆の夏書哉 蕪村 夏之部 ■ 春泥舎會、東寺山吹にて有けるに
日野と謂ふ小さき駅に立ちし冬 上村占魚 鮎
禰宜の筆絵雛木履をはきたまひ 後藤比奈夫
葱汁に筆硯甚だ多祥なり 田森柳渓
年頭躍筆墨条のみの白馬の図 中村草田男
念いれて洗ふ大筆涅槃西風 角川照子
燃えさかリ筆太となる大文字 山口誓子 不動
馬士の謂ひ次第なりさつき雨 中村史邦
馬士の謂次第なりさつき雨 史邦
俳壇の変遷を生き去年今年 野見山ひふみ
梅はとく開いて居るや筆始 才麿
梅雨の花病みて怠る謂れなし 石田波郷
買初の句会の筆の五六本 山口青邨
買足せり筆の始めの追分繪 高澤良一 燕音
買物は筆一本や啄木忌 鈴木真砂女 都鳥
売文の筆買ひに行く師走かな 永井荷風
萩の筆買ふ三月の雨強し 沢木欣一 地聲
萩筆の遠江よりしぐれ文 上田五千石『琥珀』補遺
白菊に謂はん方なき夜明かな 尾崎紅葉
白魚かそもそも氷のかげなるか 白魚 正岡子規
白雪の筆捨山に墨つけん 雪 正岡子規
白湯呑んで仕事納めの筆硯 佐藤素人
白梅の風筆塚に棲み付けり 加藤元子
白梅や皇族下馬と筆大なり 寺田寅彦
白壁や子供がすさみ筆始 黄口
薄暑芭蕉の詩筆千行万行や 中村草田男
薄々と筆を下ろせば冬の海 正木ゆう子 静かな水
麦秋やどこも能筆札所妻 木村勇
八一忌の筆の荒毛をいとしめり 西山あきら
発端は朝の玻璃戸の守宮より 土谷倫
発端は忘れ月下の会議室 石寒太 翔
発端を忘る縁や春の雪 上田五千石『琥珀』補遺
鳩寿たり火燵の上の筆硯 阿波野青畝
半歌仙独吟したる試筆かな 茨木和生 往馬
反古さらへ女筆恥かし年の暮 安昌 選集「板東太郎」
眉白をきゝとめて筆置きにけり 白井常雄
筆いれて掻き探したる巨燵哉 炬燵 正岡子規
筆えらぶ店さきにゐて冴え返る 室生犀星 犀星発句集
筆おろす寒九の水になじませて 武藤あい子
筆がすれして消えかかる大文字 池田笑子
筆かすれ月斗ふすまに花の冷 杉本艸舟
筆かりて旅の記を書く蒲團哉 蒲団 正岡子規
筆くれて返事させけり雪の庵 内藤丈草
筆すてた手を手で握る寒さかな 幸田露伴 谷中集
筆すてぬ松こそよけれ初硯 蓼太
筆ちびてかすれし冬の日記哉 冬 正岡子規
筆で食ふこといくとせぞ冬木の芽 鷹羽狩行
筆とつて冨士や画かん白重 白重 正岡子規
筆とめて外を見て居る春日かな 野村泊月
筆とらず読まず机に霙さく 上村占魚
筆とりて四隅にわかる月見哉 松岡青蘿
筆とりて門辺の草も摘む気なし 杉田久女
筆とるは硯やほしき児桜 服部嵐雪
筆とればわれも王なり塗火鉢 杉田久女
筆とれは若葉の影す紙の上 森鴎外
筆とれば短冊の上に桜ちる 散桜 正岡子規
筆と見て見ひらく芙蓉の命かな 山口素堂
筆につく墨のねばりや五月雨 五月雨 正岡子規
筆に紅つけて雛の口を描く 瀬戸十字
筆に墨たっぷり吸わせ立夏なり 好井由江
筆に霊ありて夕立を祈るべく 夕立 正岡子規
筆に聲あり霰の竹を打つ如し 霰 正岡子規
筆のもの忌日ながらや虫払 召波
筆の海墨に声有り千鳥石 口慰 選集「板東太郎」
筆の鞘焼きて待つ夜の蚊遣りかな 尼-芳樹 俳諧撰集玉藻集
筆の先双つにわれて秋初 中嶋秀子
筆の尖ちよんと落して爽波の忌 西野文子
筆の穂のかなしき反りよ朝曇 相馬 黄枝
筆の穂のさゝけ出したり秋の風 秋風 正岡子規
筆の穂のすつぽ抜けたる安居かな 阿波野青畝
筆の穂のまだ濡れてゐる虹の下 牧 辰夫
筆の穂の干され植田の穂のなびく 松崎鉄之介
筆の穂の長いのが好き福寿草 後藤夜半
筆の毛をそろへたつるや年の暮 才麿
筆の林つくろひ物や雲の峯 調泉 選集「板東太郎」
筆の穗にいとど髭うつ寫し物 竈馬 正岡子規
筆はこぶ一点一画夜の秋 上田五千石『琥珀』補遺
筆はじめ去年よりの修羅走りだす 小檜山繁子
筆ひぢてむすびし文字の吉書かな 宗鑑
筆ひぢて結びし文字の吉書哉 宗鑑
筆ほぐす朱唇の墨も夜涼かな 西島麦南
筆まめといはれて書けぬ春の闇 ふけとしこ 鎌の刃
筆もつて寝たるあるじや時鳥 時鳥 正岡子規
筆も凍るこよひなりけり実朝忌 山口青邨
筆モ墨モ溲瓶モ内ニ秋ノ蚊帳 秋の蚊帳 正岡子規
筆より持たぬ指にて 東京夜景さす 伊丹公子 山珊瑚
筆りんだう摘んで東京遥かなり 栗原米作
筆をると詩箋に落つる木の葉髪 上田五千石『田園』補遺
筆を手に夏書の人の昼寝哉 夏書 正岡子規
筆を選りをり老鶯を聞くとなく 田部黙蛙
筆を挿すごとく水仙壺に挿す 吉屋信子
筆を箒として蕪村大暑を一掃す 荻原井泉水
筆一本 疼く背骨を立て直して 伊丹三樹彦
筆一本洗ひ八十八夜かな 関戸靖子
筆一本箸は二本のとろろ汁(緑雨居士に倣ふ) 石原八束 『黒凍みの道』
筆一本疼く背骨を立て直して 伊丹三樹彦
筆柿や面会謝絶いつまでも 石田波郷
筆柿を看護婦も買ふわが後に 石田波郷
筆噛んで寒紅の唇汚さざる 村林星汀
筆噛んで詩箋引き寄す屠蘇の酔 上田五千石『天路』補遺
筆揮へばこぼるる櫻散る楼 会津八一
筆供養一管一管年惜む 阿波野青畝
筆供養片手拝みに焚きにけり 江原正子
筆結ひの心もほそる五月雨 立花北枝
筆硯に一人親しむ灯火かな 増田月苑
筆硯に及べる喜雨のしぶきかな 日野草城
筆硯に親しむことも梅雨籠 山田弘子 こぶし坂
筆硯に多少のちりも良夜かな 飯田蛇笏
筆硯のそのままにある夕ざくら 山口青邨
筆硯の一間ありけり夏木立 山本洋子
筆硯の小さき黴の書院かな 大峯あきら 宇宙塵
筆硯の正しく置かれ青簾 本岡歌子
筆硯の部屋に牡丹の風入るる 稲荷島人「続夏雲」
筆硯の夜長き水を足しにけり 細川加賀 『傷痕』
筆硯ペンと鉛筆喜寿の春 後藤比奈夫
筆硯や月の筵に置かれたり 池内たけし
筆硯や新草離離と垣の内 下村槐太 光背
筆硯をはなれかげろふ踏みにけり 宇佐美魚目
筆耕や一穂の灯に暑き宵 飯田蛇笏
筆始ほろ酔ひの字もめでたけれ 柏木志浪
筆始めこめかみ酔ひてきたりけり 小林康治 『華髪』
筆始め決意の文字のにじみけり 中林利作
筆始め坐り直せば墨匂ふ 板津 堯
筆始め要らぬところに力入れ 高澤良一 宿好
筆始歌仙ひそめくけしきかな 不器男
筆持たぬ盲ひの友の初電話 高橋利雄
筆持つて硯の乾く眠さかな 幸田露伴
筆持てば文字が寄せくる春騒夜 能村登四郎
筆捨の岩に鮎釣仁王立 阿波野青畝
筆取て千艸の花におくるゝな 闌更
筆取りてむかへば山の笑ひけり 蓼太
筆初め土牛の富士を仰ぎけり 大久保たけし
筆匠の家紅梅を見て入る 森澄雄
筆匠の死後も名だいに雪降れり 飯田蛇笏
筆匠の暖簾垂れたり鳥総松 水原秋櫻子 蘆雁
筆匠の鑿返し研ぐ朝桜 井口秀二
筆勢の声となりゆく墓の秋 岡本眸
筆勢の余りて切れし大文字 岡本眸
筆蹟の美しき寒さ女なりし 渡邊水巴 富士
筆折つて藷に窶るゝ六腑かな(文章書かぬ言ひわけに) 『定本石橋秀野句文集』
筆洗う梅のつぼみの白のため 増田萌子
筆洗にむらぐもつくる寒四郎 上田五千石 琥珀
筆洗に湖を掬へり神の留守 内山寒雨
筆洗の若水に朱を走らしむ 小金井絢子
筆洗の水かつてあり竹田忌 黒田桜の園
筆洗の水こぼしけり水仙花 正岡子規
筆選ぶ雨の石見や人麿忌 野上美代子
筆選ぶ店先にゐて冴え返る 室生犀星
筆措いて妻と十六むさしかな 後藤比奈夫
筆措いて秋の螢の闇欲しき 中村祐子
筆措いて早稲吹く風をききに出づ 水原秋桜子
筆草やいそはかすみて一文字 霞 正岡子規
筆造る毛揃ひの下屋涼しかり 松崎鉄之介
筆太き蓮如名号日雷 山本洋子
筆太に描きたる円や達磨の忌 磯貝碧蹄館
筆太に夢一文字を智恵詣 鈴木千恵子
筆太に臘八接心告知せる 赤木利子
筆置いて仰ぐ前山夏近し 北村勢津子
筆置いて夜も竹の葉の散る音か 鷲谷七菜子 天鼓
筆置けば鈴虫闇に鳴きそろふ 西浦末寿
筆塚に花散りそむる虚子忌かな 池内けい吾
筆塚のもぬけのからの落し文 原与志樹
筆塚や何ともしれぬ草の花 草の花 正岡子規
筆土割り小学生の浄き脚 大野林火
筆凍てゝかするゝばかり辞表書く 石井とし夫
筆島の穂先に夕焼夏の潮 馬場好苗
筆投げんばかり 満樹に沙羅の花 伊丹三樹彦
筆筒にいつまで秋の扇かな 尾崎放哉 大学時代
筆筒に拙く彫りし柘榴かな 柘榴 正岡子規
筆筒に団扇さしたる机かな 河東碧梧桐
筆筒の筆に待たれて明易し 鷹羽狩行
筆筒も湯呑も秋の灯を容れて 中村草田男
筆筒や筆と挿し置く山ざくら 水原秋櫻子 重陽
筆買うて終ひ天神果たしけり 仁藤稜子
筆買ひにとて雪ふんで十二町 雪 正岡子規
筆買ひに行く一駅の白雨かな 上田五千石 琥珀
筆買ふや朝虹の今日佳きことあれ 川口重美
筆疲れ見えつつ賀状書きやまず 亀井糸游
筆墨の濃き晴れさそふ梅の花 原裕 新治
筆立ての筆さき絮のごと二月 鷹羽狩行
筆立にいろいろのペン花疲れ 矢村三生
筆立に線香立てたり水仙花 寺田寅彦
筆立の山鳥の尾の初日かな 山口青邨
筆立の中の耳掻き居待月 鈴木真砂女
筆立は黄なり紋白蝶庭に 山口青邨
筆竜胆疲れてまろぶ鼻さきに 鈴木 元
筆霊にして夕立を祈るべく 夕立 正岡子規
筆擱いてにはかに募る夜寒かな 日野草城
筆擱いてまなぶたとざす猫の恋 上田五千石『天路』補遺
筆擱けば真夜の白菊匂ひけり 日野草城
筆擱けば不意に鳴きだす初蛙 白井春子
筆擲つて薄暑の袖をからげしのみ 小林康治 『玄霜』
百姓の筆を借りけり閑古鳥 石田波郷
百日の夏書の筆を供養かな 菅原師竹
百本の筆の清浄夏山家 高野素十
百本の筆の穂ならぶ爽気かな 能村研三
氷れる硯に筆なげて布団にもぐる 尾崎放哉 (病中) 大正時代
描き上げて筆置く窓辺小鳥来る 山田裕理子
富士の風や扇にのせて江戸土産 芭蕉「土芳筆全伝」
父さんは藁穂を束ねてなんぼでも習字の筆を作ってくれた 山崎方代 迦葉
蕪村筆あやしみつつも曝しけり 北村好作
蕗刈つて沼の謂れを忘じたる 田中隆子
福寿草咲いて筆硯多祥かな 村上鬼城
仏桑花洗へど筆に朱の残り 吉田登美子
物うつす筆に蚊遣の煙かな 蚊遣 正岡子規
鮒膾鮒に片目の由来あり 鮒膾 正岡子規
文机に竹の筆立春障子 大野林火 方円集
文鎮を置けば鎮まり筆始 倉田紘文
変遷のいくたび秋の灯を仰ぎ 星野立子
返信の筆も鈍れる大暑かな 高澤良一 寒暑
暮雪の軸雪村八十二歳筆 高澤良一 鳩信
母と一字母とあそびて筆はじめ 町田しげき
母はもともと揚羽に乗りて来たるかな 宗田安正
亡き人の名をなんとなく筆始 池田澄子 たましいの話
亡き人へ年賀の筆をあやまりて 川畑火川
亡き母は 筆をくわえて 葛の花 伊丹三樹彦
忙しき人の筆まめ地虫出づ 橋本榮治 逆旅
鉾ありけり大日本の筆はじめ 素堂
墨つぎて秋思の筆に迷ひあり 石川[テキ]子
墨つげばしぐれかよひぬ一夜筆 上田五千石『風景』補遺
墨と筆一気呵成に皐月富士 川崎展宏 冬
墨は旧く筆は新しくことし虎をかく 荻原井泉水
墨汁も筆も氷りぬ書を讀まん 凍る 正岡子規
墨染の兼好法師あらわれて氷れる筆の先嚼みほぐす 山崎方代 右左口
墨足る筆 奥歯噛むにも 奥歯無く 伊丹三樹彦
翻訳の筆を休めず葡萄くふ 佐藤一村
麻痺の手に筆握りしめ子規忌くる 瀬川芹子
万緑やこけし笑まわす筆さばき 田畑はつ枝
万苣噛むや左遷せらるる謂れなし 細川加賀 『傷痕』
未定稿ばかり筆さへ黴さすや 清水基吉
妙筆や葡萄の丘を抜けてゆく 飯島晴子
眠る山樵夫筆立を鳴らしけり 前田普羅
霧の中一筆描きの白は滝 山口誓子
名月や筆の言葉の引廻はし 園女 俳諧撰集玉藻集
命毛ながし末子に与ふ吉書の筆 北野民夫
命毛の長さよ筆の買ひはじめ 元夢
明月や無筆なれども酒は呑む 夏目漱石 明治三十年
鳴き残るすいとの声が筆の先 秋元不死男
面相筆の細さ杉菜の風 北原白秋
盲春庭筆太の字の秋の聲 八木林之介 青霞集
木下闇御霊屋恐る謂れ無し 鍵和田[ゆう]子 未来図
夜の秋や写経に立つる筆の鋒 鷲谷七菜子
夜の秋修験の宿に古筆あり 松井幸子
夜もすがら冱ててありけり父の筆 永田耕衣 真風
夜永さに筆とるや旅の覚書 几董
野に日ざし山に影ある筆始 辻桃子
役げ筆の淵へ石投げ夏惜しむ 鷹羽狩行
優曇華に会ひ読み直す塚由来 小路生雅
由来なき絵や書き壁の蝸牛 中村史邦
由来なき絵や書壁の蝸牛 史邦
夕立や紅筆溝を流れ行 夕立 正岡子規
夕立や筆そゝぐべき潦 井上井月
余生とは戦中派の謂さりながら青年をして眠らせしは何 晋樹隆彦
用始禿筆を噛む小吏かな 村上鬼城
羊水を拭く手挑ねのけ仔馬立つ 都田 筆
葉牡丹の座に薄明の筆硯 石原舟月
羅のそもそも鰻嫌ひなる 藤田あけ烏 赤松
落ち際はそもそも無音法の滝 高澤良一 素抱
略字化の国の筆紙を 夕日に抱く 伊丹三樹彦
涼風は筆をまろばし紙をとばし 山口青邨
良寛を学びて遠し筆始 中 火臣
瑠璃鶲ふと筆を置く山日記 安田和義
冷酒に刀筆の吏の韻事かな 日野草城
礼帳に備へて徽墨又湖筆 阿波野青畝
礼帳や筆初めなる我が名慚づ 五十嵐牛
鈴虫やねむごろに拭く写経筆 長谷川 翠
漣掛けそもそもをかし滝不動 阿波野青畝
露けしや名刀に銘筆に銘 鷹羽狩行
露凍てて筆に汲み干す清水哉 松尾芭蕉
和を以て貴しと筆始めけり 阿波野青畝
冱は来ぬ熊は掌をなめもの謂はず 前田普羅 飛騨紬
宸筆もものかは紙魚の確信犯 高澤良一 随笑
戀の字の糸のもつるる試筆かな 鷹羽狩行
棕櫚主日陶師の蔵す木裂き筆 竹久よし子
楪に筆こころみん裏表 浪化
涅槃雪玄奘も筆休めけむ 有馬朗人 耳順
穗薄を筆に結んで物書かん 薄 正岡子規
茲(ここ)十日萩大名と謂ひつべし 阿波野青畝(1899-1992)
茲十日萩大名と謂ひつべし 阿波野青畝
茱萸は実に戦没者のこと世に謂へり 及川貞 榧の實
萵苣噛むや左遷せらるる謂れなし 細川加賀
蕾稚し筆のごとくに蓮の花 山口青邨
蘆と言ひ葭と謂はれて刈られけり 大石悦子 群萌
蝗見れば筆といふ人なつかしく 星野立子
銜へしは漆の筆や冬ざるる 飯田はるみ
頽齢をうべなふ字句を筆始 富安風生
鵯鳴くや筆勢強き久女の書 里坂紫陽子
鷽替へに来て天神の筆を買ふ 橋本 博
鷽鳴くやわざ老ゆるなき筆づくり 内山 亜川
黴の中業の筆執るあぐら組む 清水基吉
以上
*帷子やおもきが上の墨衣 三宅嘯山
あぢきなき墨の砂かな夜寒哉 五明
あぢさゐに淡墨いろのけふありし 上田五千石『琥珀』補遺
あはあはと墨のにじみし雪見舞 阿部子峡
あやまちて墨が宜し老の春 阿波野青畝
うぐひすに墨のひなたや梅の花 浪化
うすれゆく墨のいのちや蕨山 宇佐美魚目
うす墨にさくらが見えて男かな 能村登四郎
うす墨に牡丹供養の招き文 櫛原希伊子
うす墨の霞のごとき字に遊ぶ 大野林火 月魄集 昭和五十五年
うす墨の硯の沖に雪来つつ 和田悟朗
うす墨の多摩の横山流灯会 下田閑声子
うす墨の夕暮過や雉の声 小林一茶
うす墨の枠をつけたる一枚のハガキの中に君はありたり 山崎方代 右左口
うす墨を流した空や時鳥 一茶 ■文政元年戊寅(五十六歳)
うつくしき墨絵の便り紀元節 杉戸由紀子
おほらかに墨の撥ねたり臘八会 中村苑子
おもひきり筆が墨吸ふ油照り 小川原嘘帥「日輪」
お降りやたひらに減りし奈良の墨 殿村莵絲子
お降りや心たひらに墨をすり 西森千代樹
お風入れ墨に佳き香のもどりしと 大石悦子 百花
かきつばた畳に墨はこぼれても 夏目成美
かじかめるまま蝮指墨を練る 橋本多佳子
かな文字の墨の匂ひの花野かな 渡辺恭子
がん二字の墨痕星をまつりけり 中本柑風
きたなしや蠅のはこかと墨のはね 寥松
きのふまで墨搗いてゐし初燈 南上敦子
くちびるの墨わすれゐる安居かな 阿波野青畝
けふ貼りし障子に近く墨を摺る 山口波津女
けんがくに墨もをりよし春の水 玄梅
ことしまたうす墨の天楸邨忌 岡崎ゆき子
ご遺墨に鬼灯赤し莫愁忌 岡澤喜代子
さくらのような薄墨の朝いつかくる 宇多喜代子
さなぶりのおほぜい登る古墳かな 吉本伊智朗「墨隈」
さむざむと壁墨工の黒手型 山口誓子
さやけくて薄墨いろの羽根拾ふ 鍵和田[ゆう]子 浮標
しじみ貝の二つと一つと青墨、栖鳳えがく 荻原井泉水
しだれ梅薄墨色の夜空より 大野林火 月魄集 昭和五十六年
しづるとき薄墨となる春の雪 岩坂満寿枝
しのぶ艸顔に墨つく夏書哉 高井几董
じゆんじゆんと淡墨桜枝張れる 田中水桜
しら露も墨に和してぞ五々百野 玄梅
すでに汚る墨工が眼に触れしのみに 橋本多佳子
すり曲し墨にも月をまたれけり 松窓乙二
すり流すよき墨の香や九月盡 会津八一
する墨に落花の雪のまぶれけり 三宅嘯山
せされいや金色夜叉は墨の稿 平畑静塔
せり上り渓墨ざくら雲寄せず 関森勝夫
そぞろ寒布施書くだけの墨をする 犬塚藤子
その所持の墨をわが継ぐ木堂忌 水原秋櫻子 蘆雁
その夢も薄墨いろか浮寝鳥 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
それ以来筆墨置かぬ卓の冷え 上田五千石『琥珀』補遺
たそがれはうす墨かぶり花すもも 井沢正江 湖の伝説
たゞ墨を擦りて香を立つ虚子忌なりき 殿村菟絲子 『旅雁』
たなごころ墨によごさば蘆刈らむ 田中裕明 櫻姫譚
ちび墨と我とありけり年の暮 幸田露伴 礫川集
つくづくと翅の上げ下げ墨とんぼ 高澤良一 寒暑
つくづくと黴面白き墨の尻 高橋睦郎
つくづくと黴面白し墨の尻 高橋睦郎 稽古
とても世を藤に染たし墨衣 宗波
とばしりし墨も頓阿の杜鵑 高井几董
ながき夜や眠らば顔に墨ぬらん 三浦樗良
なかなかに墨濃くならず水仙花 右城暮石 上下
なつかしき夏書の墨の匂ひかな 蕪村
ならの名の墨にも匂ふさくら哉 馬場存義
にじむ墨自在にあそぶ萩月夜 三橋迪子
のうぜんや古墨を出してまたしまふ 伊藤敬子
はなびらにゝと墨つけて芥子晴れやか 阿波野青畝
ひらき見す卒業証書墨匂ふ 西村和子 かりそめならず
ふくませて朱墨はかなし筆始 三浦恒礼子
ポケットの青墨秋の夜に重し 皆吉司
ボジヨレーヌーボー烏賊墨和へのスパゲッティ 佐藤喜代子 『水の綺羅』
ほたと落ちし墨も白紙のうらゝけき 碧梧桐
ほとゝぎす啼や墨絵に似たる寺 白雪
ほろほろと墨のくづるゝ五月哉 五月 正岡子規
まろびたる筆が墨曳く油団かな 飯田京畔
みとり子の墨かいつけし晒かな 蓼太
みどり子の墨かい付けしさらしかな 蓼太「続明烏」
ものの芽や木賊は古き墨の節 永井龍男
ゆく秋や月の遺墨を掛け通し 荒井正隆
ゆつくりと遺墨の扇使ひをり 小島健 木の実
ゆつくりと墨磨ることも圭岳忌 岡本差知子
ゆふされば墨を点ずる蟻地獄 山口誓子
ゆふ涼魚墨をのむ都かな 寥松
リラ冷えや墨の乾かぬ芳名簿 伊藤敬子
わが知れる墨堤失せぬ雛納め 渡邊千枝子
わが庭に来ませ薄墨初桜 稲畑汀子
わらび餅老師の口の墨を消す 宇佐美魚目
われも滲みて月の出の墨画かな 塘柊風
をしみなく夏書の墨のまがりける 阿波野青畝
をとめ手に墨すらしめて山笑ふ 上田五千石 天路
愛染と墨書して冬深まれり 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
案山子に目鼻描くもほのぼの墨の香は 大熊輝一 土の香
闇汁の案内の墨痕淋漓たり 鈴木鷹夫 千年
遺墨よく虚子を伝へて暖かし 岩松草泊
遺墨展しぐれ呼ぶ灯に集ふかな 伊藤京子
遺墨展見て爽やかに鬼城の忌 山王堂正峰
一ツ目の橋や墨絵のほとゝぎす 永井荷風
一はけに墨絵の竹の寒さかな 〔ブン〕村
一気に書く土用うなぎの墨太く 吉田北舟子
一隅の蝌蚪のかたまり墨こぼし 山口誓子
一行の遺墨のごとく蟻の道 鷹羽狩行
一行の墨痕淋漓青嵐 鷹羽狩行
一室に淑気を放つ徽墨かな 阿波野青畝
一点の墨もつかじや白ぼたん 木因
一筆の墨絵に涼し峯の松 琴風
一驟雨駆け抜ける山墨す 高澤良一 宿好
引売りの花烏賊墨を流したる 川崎展宏 冬
陰陽師 落花のつみを贖ふと未明のそらの薄墨の母 筑紫磐井 未定稿Σ
烏賊の墨こぼれつゞける渚かな 岡田耿陽
烏賊の墨ながるゝ小家の節句哉 曉台
烏賊の墨返り血のごと浴ぶ寒暮 内田美紗 浦島草
烏賊の墨流るる小家の節句かな 暁台
烏賊市場何升の墨流しけん 阿波野青畝
烏賊墨に舌染め小悪魔の春夜 馬場駿吉
羽とぢし墨蜻蛉の失せにけり 阿波野青畝
雨あしを薄墨いろに白牡丹 鷹羽狩行
雨の昼経木に滲む墨をする 林田紀音夫
雲の日の薄墨に花うすずみに 大橋敦子
雲水の笠に墨痕雲の峰 藤田枕流「雪解風」
円相の墨の色濃し三が日 高原 桐
押分て石に墨あり花すゝき 百里
横つらの墨も拭はず冬ごもり 大魯
横丁に碩学隠れ墨とんぼ 加藤郁乎
翁忌といふうす墨を身のうちに 藤田湘子
襖絵のうす墨山の夜寒かな 鈴木鷹夫 大津絵
襖絵の墨の薄るる実千両 古田紀一
黄梅に馴染徽墨に馴染かな 後藤比奈夫
黄葉やしんしんと師に墨するも 小池文子
牡丹をえがく墨一いろの墨気揮う 荻原井泉水
下り立ちし雪にて墨の手を浄む 山口誓子
下校時の子の声溢る迎春花 山田千代 『淡墨』
夏百日墨もゆがまぬこころかな 蕪村「蕪村句集」
歌を書く墨は金箔実朝忌 北村和子
花いかの墨ぬくや水やわらかく 秋山美智子
花そばやうす紅の後墨衣 支考
花の雲あれが薄墨桜とや 高野素十
花を見る人の袂に墨つけん 移竹
花烏賊のいでいる息の墨の泡 阿波野青畝
花烏賊のいでゐる息の墨の泡 阿波野青畝
花烏賊の生温かき墨流す 森田智子
花烏賊の生温き墨流す 森田智子
花烏賊の墨のしくしく笑ひかな 鳥居真里子
花烏賊の墨の洪水さと流す 阿波野青畝
花烏賊の墨はしりたる腕かな 早野四方
花烏賊やおのれ吐きたる墨まとひ 加藤三七子
花祭稚児の眉墨太かりき 村山敏行
花人を憂しと墨烏賊うづくまる 川崎展宏
花鳥やはては舐めみる墨くらべ 能村登四郎 菊塵
花曇墨を守りて桐の箱 長谷川櫂 古志
花冷と覚えて墨の香もほのか 千代田葛彦
蚊たたいて子規遺墨集一瞥す 阿波野青畝
蚊遣して畳に立たす位牌かな 吉本伊智朗「墨隈」
我とても墨はく烏賊の迯所 松窓乙二
雅仙紙や試筆の墨の飛ばば飛べ 阿波野青畝
戒名の墨うすれゆく新樹光 林房枝
海苔の名やただうち見には雪と墨 丈草
海苔の名やたゞ打見には雪と墨 丈草
海苔の名やただ打見には雪と墨 内藤丈草
灰に埋め墨乾すといふ露の町 飴山實
灰墨のきしみ村*くわうの返り花 芥川龍之介 我鬼窟句抄
絵の上に墨の太文字種袋 清崎敏郎
柿崎や墨にはそめで夏衣 支考
柿若葉大工一気に墨打ちす 木村里風子
格子戸も奈良墨の香ぞ大西日 伊藤三十四
郭公の一日墨にまみれけり 丸山比呂
郭公薄墨時の遠音かな 完来
梶の葉に硯はづかし墨の糞 無腸
梶の葉の墨のかをりのきこえける 日野草城
梶の葉や雫の田井に墨摺らん 馬場存義
割れ墨の束ねを買ひぬ獺祭忌 ふけとしこ 鎌の刃
寒いペンギン考えは今首の中 墨谷ひろし
寒の鯉描く薄墨を塗りかさね 能村登四郎
寒の墨練りし足裏に麝香の香 田中英子 『浪花津』
寒泳の果つ墨痕をあざやかに 拓植翠里
寒硯に茂吉遺愛の墨匂ふ 水原秋櫻子 帰心
寒見舞したたむ墨のかんばしき 西島麦南
寒食や薄墨流す西の空 会津八一
寒雀と墨工眼澄む夕餓ゑどき 橋本多佳子
寒凪や硯の海の忘れ墨 疋田秋思
寒梅や墨絵ぼかしの比叡山 鷹羽狩行
寒白菊墨を洗へば手に付く墨 菊岡素子
寒墨の足練り職人煤羅漢 松崎鉄之介
寒墨を造る顔以下さらに黒し 山口誓子
寒墨工夕ベは臍に煤詰る 品川鈴子
寒墨造り一桝一人牢屋(ひとや)めく 松崎鉄之介
寒墨造り轟轟と鳴る採煙倉 松崎鉄之介
寒墨造り湯煎の膠とろとろり 松崎鉄之介
寒墨踏む蹠足趾ねんごろなる 橋本多佳子
干支一字青墨で書く賀状かな 山崎安子
雁わたる薄墨使ひはじめの夜 原裕 新治
幾山河越えてうす墨色の鶴 木田千女
徽墨ありわが日の本の梶の葉に 阿波野青畝
鬼城忌や芳墨惜しみなくおろす 上村占魚
鬼灯を鳴らしつつ墨すりにけり 篠原鳳作
義仲寺の志功の墨絵春なかば 谷口淑江
久々に筆墨の用涼風裡 飯田龍太
旧正月墨一色の魔除ヶ札 藤枝大成
去年今年墨の香父祖のにほひかな 飯田龍太
虚子忌とは斯く墨すりて紙切りて 星野立子
許六忌のこぼれし墨を拭ひけり 柏 禎
金箔に墨弾かるる試筆かな 浅井陽子
空は墨に画龍覗きぬほとゝぎす 嵐雪
靴下の淡墨にしてさくら狩り 飯田蛇笏
靴穿きて想ふさむき殿その水墨 山口誓子
靴凍てゝ墨塗るべくもあらぬ哉 凍る 正岡子規
靴墨のはつかに匂ひ春寒し 行方克巳
熊笹の墨乾くごと枯れてあり 長谷川櫂 古志
君が賀状墨むらさきににほふなり 山口青邨
君とわれ短日読めぬ墨の銘 水原秋櫻子 重陽
薫風や硯も墨もかくは欠け 久保田万太郎 流寓抄
形しろの墨のにじみしわが名かな 西山誠
渓水や花烏賊墨を吐きつくす 芝不器男
蛍烏賊目玉も墨も食うてけり 辻 桃子
欠け墨を匁にて買ふ年の暮 松崎鉄之介
月の座の一人は墨をすりにけり 中村草田男
月花の心冱寒ぬ墨の石 朱拙
月雪の墨の香ふかみ古人達 白雄
硯洗ふ墨あをあをと洗れけり 橋本多佳子
硯洗ふ墨あをあをと流れけり 橋本多佳子
硯墨蠅の喰ものなかりけり 百里
絹が吸ふ墨の淡さや風五月 義澤竹麗
絹本の墨色浅し一蝶忌 黒田桜の園
見せ合へば見合ふ古墨を立つ霞 三橋敏雄
見るうちに薄墨になる浸け障子 能村登四郎 菊塵
見世物の干墨笑ふ寒鴉 松崎鉄之介
遣羽子や我墨つける君が顔 遣羽根 正岡子規
遣羽子や鼻の白粉頬の墨 遣羽根 正岡子規
元朝の凍ての極みの墨を磨る 中島斌雄
元日の竹は墨絵となりて暮れ 山口青邨
元日の墨摺つて呼ぶ父の声 春樹
古紙えらび古墨えらびて筆始 町 春草
古梅酒開くや母の墨の文字 武藤勝代
古筆や墨嘗めに來る冬の蠅 冬の蠅 正岡子規
古墨のことなど思ふ水中り 赤尾兜子
枯れ季の鯉墨いろをやや深め 能村登四郎
枯葉つけし桑と薄墨月信濃 古沢太穂 火雲
枯蘆の墨絵に似たる雀哉 荊花
狐火や便りの墨を濃にすれば 中村汀女
後ろ手に点る薄墨桜かな 五島高資
御遺墨に紙魚一つなき淡窓忌 熊谷秋月
御中元と書いて墨痕淋漓たり 日野草城
御秘蔵に墨をすらせて梅見哉 榎本其角
光陰のやがて淡墨桜かな(根尾) 岸田稚魚 『萩供養』
光陰のやがて薄墨桜かな 岸田稚魚
向合うて墨すりかはせ用始 村上鬼城
更けてゆく夜の鏡にひずみおるおのれの鼻に墨ぬってみる 山崎方代 右左口
紅葉は淡彩、谷は墨色かげりゆく 荻原井泉水
紅薔薇の紅を矢立の墨で描く 後藤比奈夫
行く秋の雲と思ひぬ墨に金 山口青邨
行としを墨すり流す宵のそら 風国
香墨にうすき黴あり丈山忌 平畑静塔「月下の俘虜」
高野切墨継ぎも佳き春夕焼 伊藤敬子
此頃は薄墨になりぬ百日白 百日紅 正岡子規
今の世の竹を育てつ苔の花 才麿「墨吉物語」
今昔のいろ淡墨に花吹雪 伊藤敬子
昏れ雲のうす墨垂りて山ざくら 石原舟月
冴ゆるまで静けき室に墨匂ふ 新井石毛
桜烏賊おのれの墨に汚れたる 沖崎一考
桜淡墨天上無風散りそむる 近藤一鴻
鯖漁夫の腕の入墨大王崎 高野素十
皿の墨すぐにかわくよ若葉風 星野立子
山井や墨のたもとに汲蛙 杉風
山桜力のままの墨の跡 長谷川櫂 天球
山宿に物の怪ばなし二日月 山田千代 『淡墨』
山焼の香に買ふ寧楽のみやげ墨 松島 利夫
山焼の夜は墨色に奈良町屋 広岡仁 『休診医』
山茶花にうす墨いろの日昏かな 山岡成光
散りいそぐ花を払ひぬ墨ごろも 前山松花
散るを惜しむ淡墨桜しきり散る 大野林火 飛花集 昭和四十八年
散る花のなほ薄墨になりきれず 坊城俊樹
散る花を墨に摺り込め旅硯 青蘿
散ればこそ桜を雪に墨なをし 吾仲
残る蚊を墨にすりたる麁相かな 尾崎紅葉
刺墨の竜の背と合ふ初湯かな 西村 旅翠
四図の墨豊かなり鉄斎忌 相生垣瓜人
四明忌や遺墨に穂麦たてまつる 星野空外
士朗忌や数百点の書と遺墨 寺島初巳
子は墨の髭など生やし日向ぼこ 京極杞陽
子規遺墨漱石遺墨冬ぬくし 後藤比奈夫
子供らや墨の手あらふ梅の花 室生犀星 犀星發句集
師に侍して吉書の墨をすりにけり 杉田久女
志す惜春の句や墨をする 星野立子
指に墨つけ秋晴へ出て来たる 右城暮石 句集外 昭和四十七年
斯く在りと開く薄墨桜かな 阿波野青畝
紙一反墨を一挺春愁ひ 伊藤敬子
字母の房事に墨かすむ玉の井のギボン 加藤郁乎
時雨るゝや墨のヂマル新卒都婆 夕兆
次の間に墨の香流れ夏書かな 吉川智子
鴫立て日は薄墨に暮にけり 尚白
軸涼し墨一刷きの瀑布なる 伊藤宮子
七月や描く眉墨の細く濃く 野村津也子
七夕や筆の穂なめし脣の墨 高橋淡路女
若芝に墨の雫のやうな僧 小澤克己
若水で墨磨る部屋の静もれる 原田英子
若水や三斗ばかりも墨すらん 尾崎紅葉
寂庵の淑気に墨の香を加ヘ 鷹羽狩行
手にうけてこまか淡墨桜散る 大野林火 飛花集 昭和四十八年
朱と墨を恃む篆刻事始 上津原太希子
朱印の上いきいきと冬の遺墨 飯田龍太
朱硯に散りしむ墨や庭若葉 内田百間
寿ぎの墨の光を載せ賀状 高澤良一 随笑
修二会待つ生駒信貴山薄墨に 岸野不三夫
秋の蚊の墨の匂ひに来たりけり 石川纓子
秋海棠の広葉に墨を捨てにけり 村上鬼城
秋収の夜更けて墨を摺りにけり 森つる子
秋蝉に墨痕著るき掛色紙 飯田蛇笏
秋扇や薄墨滲む母の文字 岡田晏司子
秋痩せて落墨描きのごとくあり 能村登四郎
秋灯の流しに蛸の墨袋 横山房子
秋風の墨すられつつにほひけり 木下夕爾
秋風をふるうて見せよ墨ごろも 服部嵐雪
秋風をふるふて見せよ墨ごろも 嵐雪
秋立つや観念の墨磨つてをり 桂信子 草影
秋涼し世の縄墨に従ひて 守屋吉郎
秋涼や墨絵となりぬ相模湾 落合柊子
宿墨の沈む藍色冬に入る ふけとしこ 鎌の刃
宿墨を蠅虎は知つてをり 阿波野青畝
淑気はや机上の筆硯紙墨より 小田切輝雄
出羽薄墨めざめて人は爪を噛む 澁谷道
春くれぬ酔中の詩に墨ぬらん 几菫 五車反古
春の山画くうす墨のにじみけり 梅里全子 『祝矢』
春の大掌に古墨一丁縦に載せて 中村草田男
春の昼大書して墨減らしゐる 森澄雄
春の日やどの兒の顔も墨だらけ 井上井月
春の夜や墨に負けたる吉野紙 大石悦子 聞香
春の晝墨磨つてをりひたごころ 森澄雄
春みぞれ墨絵の里は昼灯し 勝村茂美
春寒や朱墨すり出す病羽音 渡邊白泉
春暁やうす墨色の家はたけ 渡邊白泉
春宵は墨絵のごとく尼おはす 石田雨圃子
春昼をはつと墨打つ鉄の板 山口誓子
春潮や墨うすき文ふところに 宇佐美魚目
春灯や朱墨の濃さもこゝろよく 日野草城
春灯書きたき文字の墨を磨る 町春草
春暮ぬ酔中の詩に墨ぬらん 高井几董
春雷の雲湧き墨を垂らしけり 山口青邨
春蘭や銷閑の具に墨戯あり 富安風生
初雁の空の薄墨流しかな 根岸善雄
初硯雪になる夜の墨匂ふ 銀林晴生
初硯奈良の古墨の香りけり 奥村治夫
初硯筆に朱墨を染ませけり 龍男
初硯墨に五彩のありにけり 千石比呂志
初硯墨むらさきに匂ひけり 田中美智子
初硯命毛に墨滲みゆき 河府雪於
初霜や墨美しき古今集 大嶽青児
初天神欠けし硯に欠けし墨 草間時彦
初買の手を汚したる烏賊の墨 鈴木真砂女 居待月
初筆の金短册の墨をはね 能村登四郎
曙の墨絵の雲や糸ざくら 泉鏡花
曙や眉墨匂ふ白重ね 白重 正岡子規
書初の淡墨濃墨磨りわけし 武久昭子
書初の筆重きまで墨吸はす 清水 游
書初の夫の部屋より墨匂ふ 鈴木幸子
書初の墨の匂ひの一間かな 河野由希
書初の墨を磨らんとして熄みぬ 石田波郷
書初の墨病室をかをらしむ 波郷
書初の墨流るるを早や吊りぬ 田村一翠
書初やあたらしき墨匂ひだす 新谷ひろし
書初や寸余の墨をたふとみて 下村ひろし
書展出て炎天のうす墨の色 高瀬哲夫
女将ときに墨磨ることを梅雨の昼 鈴木真砂女 居待月
小机に墨摺る音や夜半の冬 永井荷風
小鏡にうつし拭く墨宵の春 杉田久女
小春日や青墨淡く鯰画く 梅里全子 『祝矢』
松の影の墨絵ににじむ沼の秋 寺田寅彦
松桜川をへだてゝ墨の袖 李由
沼の雨墨絵の如く鷭浮けり 綾部ひで子
沼寒し手賀の魚拓の墨のいろ 阿波野青畝
衝立の遺墨の虎や仙忌 小原菁々子
象潟の冬は美人の墨絵にて 望月宋屋
鉦叩朝より叩く含み墨 村上麓人
上げ潮の匂ふ墨堤いぬふぐり 藤武由美子
唇に墨つく児のすゞみかな 千那
唇の墨はいつから冬ごもり 凉菟
心経の摩訶に墨つぐ夏書かな 上田五千石『天路』補遺
新しき天秤棒に烏賊の墨 岡田耿陽
新築の窓に墨つく寒哉 寒さ 正岡子規
新年の墨水語り其村吶る 新年 正岡子規
新涼のぴしと打つたる墨の糸 松倉ゆずる
真裸に字を書く墨をたっぷりと 山口誓子
神の申し子濃墨桜天へ満つ 田中水桜
神南備の四温の鯉の彩と墨 上田五千石『天路』補遺
神輿舁く夜目にも派手な入墨が 飯島晴子
人の死が続けり梅雨の墨匂う 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
水の上を墨の流るる秋彼岸 吉田汀史
水喧嘩墨雲月をながしけり 飯田蛇笏
水澄むやいづれ遺墨となる文字を 橋本鶏二
水仙や師へおとづれは墨もてかく 富安風生
水墨の牡丹の中の牡丹色 銀林晴生
水墨の山あるごとし秋の暮 長谷川櫂 虚空
水墨の槎(いかだ)に孤客冬深む 小澤實
水無月の宿帳に墨飛び散れる 大西淳二
水無月も文月も憂しや墨硯 桂信子 草影
杉山の墨絵ぼかしに牡丹鍋 木内彰志
摺る墨の香は忘れずよ冬の蝿 白雄
摺墨と媾(あ)ふ肌匂ひ初硯 富安風生
摺墨の香は忘れずよ冬の蝿 白雄
摺墨をのぞきにおはせ龍田姫 松窓乙二
寸烏賊は/寸の墨置く/西から来て 大岡頌司
星祭墨磨りまげてはづかしき 山口青邨
生墨の灰干し職人マスクせり 松崎鉄之介
西方へ灯る薄墨桜かな 角川春樹
青芦の水に映れば墨の香も 山口青邨
青丹(あおに)よし寧楽(なら)の墨する福寿草 水原秋桜子
青丹よし奈良の都の墨雛 阿波野青畝
青丹よし寧楽に墨する福寿草 水原秋櫻子
青丹よし寧楽の墨する福寿草 水原秋櫻子 重陽
青丹よし筆墨を買ふ木の芽どき 森澄雄
青墨のたらしこみある冬の淵 上田五千石『天路』補遺
青墨の欠けも冷夏の遺品展 上田五千石 琥珀
青墨の斑点ゆゆし山女魚これ 山口青邨
青墨をおろしてやめり初硯 上田五千石『天路』補遺
青墨を置き宵闇の闇にほふ 鷹羽狩行
惜春の書の跳ね墨をおもひをり 能村登四郎
石経の墨を添けり初しぐれ 丈草
石経の墨を添へけり初しぐれ 内藤丈草
石刷りの墨の匂のあまき雨 富澤赤黄男
雪の暮墨工の眼に墨むらさき橋本多佳子
雪解風墨のつきたる童女の手 飯田龍太
雪渓や墨玉を生む山といひ 佐藤斗星 『七草の籠』
雪止みて墨絵の屏風伊賀連山 田中義明
雪足らぬ所初富士墨書され 平畑静塔
千両や大墨にぎる指の節 かな女
川砂の薄墨いろに鳥の恋 飯島晴子
洗ひたる花烏賊墨をすこし吐き 高濱虚子
洗ひたる硯を磨れば墨の虹 三星山彦
洗ふ筆よりさつと墨水の秋 鷹羽狩行
洗へども落ちぬ手の墨虚子の忌に 中原道夫
洗硯のゆくへ迷へる墨一縷 能村登四郎
喪ごころの薄墨ふかめ秋の暮 能村登四郎
爽籟や鈴鹿墨干す井桁組み 市川正一郎
掃きよせし花屑もまた薄墨よ 近藤一鴻
巣燕に墨の老舗の太格子 岡本差知子
草の戸のとしとる物や墨と筆 杉風
草描ける淡墨やがてすだくなり 渋谷道
蒼朮の焚かれ写経の墨匂ふ 吉年虹二
霜枯の鶏頭墨をかぶりけり 皆吉爽雨
尊きかも童馬山房に黴びし墨 石田波郷
村挙げて咲かす淡墨桜かな 右城暮石 天水
太梁の明治の墨書余花明り 佐久間俊子 『むさし野』
大き師の遺墨にまみゆ福寿草 佐藤いね子
大烏賊の墨べつたりと舷に 岡田耿陽
大堰川掬みて墨磨る西祭 米沢吾亦紅
大根干す淡墨櫻遠巻きに 黒田杏子 花下草上
大桜散るとき墨の香を流す 原裕 出雲
大正よ明治よ墨をすりにける 西口昌伸
大津絵の墨色にじむ梅雨入りかな 宇多喜代子
滝臭い若葉の夜は墨は濃く 原満三寿
鱈釣や我子もてなす墨の袖 野坡
誰ぞとなく春宵の墨濃にしつつ 中村汀女
誰も来ぬ三日や墨を磨り遊ぶ 殿村菟絲子
丹頂に薄墨色の雪降り来 西嶋あさ子
淡墨ざくら花を噴き上ぐ幹の瘤 関森勝夫
淡墨のさくらの花を朝に見て 伊藤敬子
淡墨のさくら千年忌のごとし 内藤さき
淡墨の花を螺鈿に畦塗れり 國島十雨
淡墨の桜の育ち后塚 田畑美穂女
淡墨の桜まぼろしならず散る 田畑美穂女
淡墨の桜紅葉の雨雫 茨木和生
淡墨の残花白雲持ち去れり 野沢節子
淡墨桜その影かその花びらか(根尾淡墨桜、樹齢千四百余年三句) 殿村菟絲子 『晩緑』
淡墨桜に胸襟開きたる日和 田中水桜
淡墨桜に光陰の軽からず 伊藤敬子
淡墨桜の白の崇さに洗はるる 田中水桜
淡墨桜わが晩節に惑ひなし 蒲田美音
淡墨桜空もうすずみ流しけり 衣川 砂生
淡墨桜見しあと根尾の村祭 杉本寛
淡墨桜高枝のはやふぶきをり 倉橋羊村
淡墨桜山の天日五衰なし 近藤一鴻
淡墨桜雪吊るさまも臈たけし 伊丹さち子
淡墨桜聴けば快楽の日もありき 殿村莵絲子
淡墨桜浮びて幽し山の姥 伊丹さち子
淡墨桜風たてば白湧きいづる 大野林火
淡墨桜風立てば白湧きいづる 林火
淡墨桜木霊あをざめゐたるかな 新井佳津子
淡墨桜虔しみて酒こぼしあふ 國島十雨
短日の磯を汚しゝ烏賊の墨 原石鼎 花影
短日の磯を汚しゝ賊の墨 原石鼎
短日の磯を汚せし烏賊の墨 原石鼎
短夜や碧に光る墨のしみ 照敏
端渓に墨がまだ干ぬ遅日かな 阿波野青畝
智照尼のうす墨ごろも雷涼し 阿波野青畝
竹春や遠流百首の墨のあと 船越淑子
竹青く日赤し雪に墨の隈 山口素堂
中空に匂ひ淡墨桜散る 大野林火 飛花集 昭和四十八年
中庭に筍壁に墨竹図 大島民郎
猪鍋や薄墨色に外暮れて 遠藤正年
帳書きや正直に濃き墨の色 百尾
朝つゆに墓標の墨の光かな 森鴎外
朝寒や弱檜に墨をうてば散 松窓乙二
朝寒や匂ふ白木に縄墨を打つ 日野草城
朝市の花烏賊墨を吹き合へり 渡辺富郎
朝蝉や墨絵のなかの金の*し尾 角川源義
朝涼の墨壺に水ふふまする 石橋林石 『石工日日』
長安の古墨匂ひぬ筆始 渡部抱朴子
吊し柿して奈良墨の老舗たり 伊藤柏翠
吊干の墨千挺に寒明くる 今西桜陵子
鶴渡り老人墨と成りゆけり たまきみのる
天平の意匠の墨を造りけり 阿波野青畝
天墨の如し大雪になるやらん 青木月斗
電燈の煤黒寒の墨造り 山口誓子
冬ちちろ磨る墨のまだ濃くならぬ 河合照子
冬に入るうす墨いろの鴎ふえ 下田稔
冬の菊木型はづせば墨うまれ 大島民郎
冬紅葉墨一色の群猿図 田中水桜
冬座敷父の遺墨をもて飾る 堀田政弘 『父の日』
冬至とて畳の墨を拭せけり 成 美
凍滝の中の水音墨を摺る 一條友子
唐墨の伸び匂やかに初硯 羽村野石
灯芯替える 墨師は紙の帽被り 奥中晩暉
藤の実や鹿を彫りたる春日墨 大島民郎
独り磨る墨よく匂ふ寒の内 小川原嘘帥
奈良墨の黒さ秋行く画仙紙に 富田潮児
奈良墨の店に秋果つ暖簾かな かな女
奈良墨の練りをいのちに老いにけり 阿波野青畝
奈良墨を磨るたなごころ夜の秋 杉浦かずこ
鍋墨にはしる火の色もどかしく外の面は西の風にかわれり 山崎方代 右左口
鍋墨を静かになてる柳かな 柳 正岡子規
鍋墨を塗られし頬の寒雀 鷹羽狩行
南無の背の墨痕滲み梅雨遍路 中村冬星
二荒山墨絵ぼかしに霾れり 松崎鉄之介
二分咲きの実は薄墨桜かな 能村登四郎
日はあれど淡墨桜宵のごと 大野林火 飛花集 昭和四十六年
入り乱れ此許をこのめる墨蜻蛉 阿波野青畝
入選の書の薄墨やあやめ咲く 梅里全子 『祝矢』
如何なる明日ありや散り敷くもちの花 山田千代 『淡墨』
葱匂ふ厨へ墨の水とりに 百合山羽公
年頭躍筆墨条のみの白馬の図 中村草田男
年々や硯を洗ふ墨の滓 佐藤紅緑
濃き墨のかはきやすさよ青嵐 橋本多佳子「信濃」
濃き墨のかわきやすさよ青嵐 多佳子
濃き墨はひかりて乾き雲の峰 茨木和生 往馬
濃山吹墨をすりつつ流し目に 松本たかし
濃山吹墨をすりつゝ流し目に 松本たかし
派をなして薄墨すすきと言ふべかり 齋藤玄 『雁道』
盃洗に墨たたへけり時鳥 会津八一
梅雨・遺墨柱時計はいまの刻 大野林火 方円集 昭和五十一年
梅雨くらし金色のこる墨の銘 水原秋櫻子 古鏡
梅雨寒や墨絵うするる一枚戸 浜田みずき 『石蕗の花』
煤膚に隠れ墨工何思ふや 橋本多佳子
煤膚の墨工佳しや妻ありて 橋本多佳子
買初のメモ靴墨と神曲と 飛旅子
白山屏風そこに渓墨桜の裳 伊藤敬子
白雪の筆捨山に墨つけん 雪 正岡子規
白扇や乾き乾かぬ墨の痕 日野草城
白梅に 善相句碑の墨の冴え 伊丹三樹彦
白梅の香や墨香の如かりき 中村草田男
白梅や墨芳しき鴻(ろ)館 蕪村 春之部 ■ 草庵
白梅や墨芳しき鴻臚館 與謝蕪村
薄氷鯉を墨絵のごとくせり 安江緑翠 『枯野の家』
薄墨がひろがり寒の鯉うかぶ 能村登四郎 有為の山
薄墨てかいた様なり春の月 春の月 正岡子規
薄墨で描かれし夏の蕨かな 佐竹たか
薄墨にしくるゝ山の姿哉 時雨 正岡子規
薄墨に昏るる寺町空也の忌 石沢シヅ
薄墨に散りてこの世のさくらならず 大野林火 飛花集 昭和四十八年
薄墨に書きゐて春の風邪ごこち 八染藍子
薄墨のさくららしくて遅れ咲く 能村登四郎
薄墨のさくら養ふ断層土 藤本安騎生
薄墨のたよりなき色や懸想文 村上鬼城
薄墨のどこか朱をひく亥の子餅 有馬朗人 立志
薄墨のどこか朱を引く亥の子餅 有馬朗人
薄墨のひまの紺青しぐれ空 富安風生
薄墨のやつれや松の秋時雨 支考
薄墨の雨雲低し青薄 巌谷小波
薄墨の雲飛ぶ尾瀬の梅雨月夜 岡田日郎
薄墨の花に通ひてゐし心 稲畑汀子 汀子第二句集
薄墨の花の下臥恋ひて来ぬ 下村梅子
薄墨の花より淡く風花す 稲岡長
薄墨の会津ぐもりに木守柿 徳田千鶴子
薄墨の空を離れずつばめ鳴く 廣瀬直人 帰路
薄墨の桜巨樹には巨魂あり 金子青銅
薄墨の山河をひろげ初衣桁 檜紀代
薄墨の汐こそきたれ夕すゞみ 完来
薄墨の祖母と木槿の道に遭ふ 有住洋子
薄墨の仲に夕顔つぼみけり 橋閒石
薄墨の富士にまみゆる遅日かな 川崎展宏
薄墨の鱗の金ンや紅葉鮒 松根東洋城
薄墨は花に霞の夕哉 霞 正岡子規
薄墨を腐草螢のころにかな 柘植晴美 銀化
薄墨桜 きれいな嘘を下さいな 松本恭子
薄墨桜ことし谺の棲むことも 諸角せつ子
薄墨桜逢ひ得たりあまごに酒一盞 福田蓼汀
麦烏賊の墨吐き潮のよよ青し 田中冬二 行人
箱書きの墨匂いたつ冬座敷 土田桂子
箱庭や小さき杉の風薫る 榾沢墨水
八一忌の墨買ふてゐる舞妓かな 上山茅萱
溌墨に夜寒の紙の白さかな 日野草城
蛤もて寒墨磨く机上かな 松崎鉄之介
半夏生墨絵の滝を吊しけり 平林孝子
秘事多き墨師と別れ暮の秋 角川源義
飛び散つて蝌蚪の墨痕淋漓たり 野見山朱鳥
飛び敗つて蝌蚪の墨痕淋漓たり 野見山朱鳥
眉墨で書き留む一句帰り花 宮下みさえ
美濃の鯉相聞の墨ながしけり 豊口陽子
鼻にまで墨を付けり冬籠 桜井梅室
筆につく墨のねばりや五月雨 五月雨 正岡子規
筆に墨たっぷり吸わせ立夏なり 好井由江
筆の海墨に声有り千鳥石 口慰 選集「板東太郎」
筆ほぐす朱唇の墨も夜涼かな 西島麦南
筆モ墨モ溲瓶モ内ニ秋ノ蚊帳 秋の蚊帳 正岡子規
筆始め坐り直せば墨匂ふ 板津 堯
筆墨の濃き晴れさそふ梅の花 原裕 新治
姫著莪の花に墨する朝かな 杉田久女「杉田久女句集」
百合遺墨気多の海の歌匂ふなり 能村登四郎
百年の露けさ笹の朱墨にも 藤浦昭代
表札に墨足して置く初つばめ 木下助治
苗札のほかには父の遺墨なし 御堂周介
浜木綿や父を墨痕ながれたり 宇多喜代子
不漁(しけ)の朝餉鍋墨につく静かな火 佐藤鬼房
夫は出稼鍋墨を枯るる潟に流し 能村登四郎
夫は出稼鍋墨を枯るゝ潟に流し 能村登四郎 合掌部落
布を晒す水ひやゝかに流れけり 高井墨公
武者幟雨空墨をながすなり 中村秋晴
蕪村忌に磨る奈良墨の匂ひけり 福村青纓
風かほれ唐とやまとの墨の色 白雄
風雨案山子墨の相好くずしゐて 上田五千石『田園』補遺
風花や墨書のまだ乾かぬに 不死男
風蘭の下大いなる墨を磨る 片岡奈王
風鈴のほどよく鳴る日墨を磨る 八木 實
文字摺の花に墨磨る閑もなし 後藤比奈夫
文墨のよき交りに良夜あり 深川正一郎
文晁の墨絵の襖に青葉寺 八牧美喜子
別ビラの墨いろ東風に匂ひけり 久保田万太郎 流寓抄
片減りの墨の歳月露伴の忌 成瀬櫻桃子
峯入の墨鮮やかな檜笠 朝妻 力
蓬莱や老舗めでたき御用墨 高橋淑子
棒杭の如きをぐいと墨の涼 高澤良一 ねずみのこまくら
頬墨のすゝけてをりぬ寒雀 静雲
北限に墨引くごとし去年の貨車 大郷石秋
北国の涼掌に伝ふ十勝石 山田千代 『淡墨』
墨いろのやうやくあかね初景色 鷹羽狩行
墨いろの運河へ垂らす秋すだれ 有馬籌子
墨いろの魚が泳ぎて夏木立 伊藤 敬子
墨うすき一消息や宗易忌 阿波野青畝
墨うすき絵に似て里の碪かな 野紅
墨うすくして若竹のみどりとす 山口青邨
墨おきて硯の海も水の秋 鷹羽狩行 七草
墨かぶりエイの涼気を曳き来たり 高澤良一 ぱらりとせ
墨かをり泰山木の花かをる 日野草城
墨こねて服まで黒し女来な 品川鈴子
墨しかと離さぬ硯洗ひけり 鷹羽狩行
墨しらぬ硯になるな玉ぞとて 鈴木道彦
墨すつてひととへだたる十三夜 桂信子 月光抄
墨すつてをり七夕の色紙あり 星野立子
墨すつて何も書かぬ日百千鳥 鈴木鷹夫 渚通り
墨すつて十一月の卓の上 橋本榮治
墨すつて十一月の洛の宿 橋本榮治 越在
墨すって昼暗くせり雪催 秋元不死男
墨すつて昼暗くせり雪催 秋元不死男
墨すつて余寒の燈うるまする 上田五千石『天路』補遺
墨すらば団扇よごさん星むかえ 風国
墨するや月のぼりゆく春草忌 横光利一
墨するや秋夜の眉毛うごかして 飯田蛇笏
墨する手いつか休めて冬日見る 星野立子
墨すれば宛てたき名あり月今宵 谷口桂子
墨すれば今宵雨月の香ありけり 村林星汀
墨すれば埴輪のゆるる文化の日 秋元不死男
墨すれば濃淡おのづから若葉光 山口青邨
墨すれば鳴く山鳩よ八一の忌 松田百合子
墨つぎて秋思の筆に迷ひあり 石川[テキ]子
墨づくり見て春霰に叩かれし 宇佐美魚目
墨つけて翌日を待べし旅衣 松窓乙二
墨つげばしぐれかよひぬ一夜筆 上田五千石『風景』補遺
墨で描く桜いつしか色を持つ 横田静子
墨とカトレア漂うドレス 高階にて 伊丹公子 山珊瑚
墨と筆一気呵成に皐月富士 川崎展宏 冬
墨なめた虻を掃出す九月かな 寥松
墨に雲人のこと葉の初桜 上島鬼貫
墨のいろいつまで草や花のつや りん女
墨ののりよかりし梶の広葉かな 下村梅子
墨の一墨の二いづれ牡丹の名 後藤比奈夫
墨の香に倦みゐて春も逝きにけり 澤村昭代
墨の香のまだ消えやらぬ秋扇 大久保道彦
墨の香のゆらりと解夏の机より 原通
墨の香の殊に匂ひて初硯 中川喜久栄
墨の香も孫に磨らせつ風信子 瀧井孝作
墨の香も朴の花香も楸邨忌 井浪立葉
墨の香や栗鼠の聴耳すずしとも 宮坂静生 山開
墨の香や雪のあしたの青女房 吾仲
墨の香や霜なつかしき鳥の跡 完来
墨の香や片耳の鹿振りかえり 岡村光代
墨の香や杢太郎忌の客座敷 平綿春響
墨の色いつ迄草や月と花 りん女
墨の線たどり申せば寝釈迦かな 山口青邨
墨の梅はるやむかしの昔かな 榎本其角
墨の番や奈良の都の古梅園 夏目漱石 明治三十二年
墨は旧く筆は新しくことし虎をかく 荻原井泉水
墨も濃くまづ元日の日記かな 永井荷風
墨よしの神の留守にも淡路嶋 諷竹
墨よしや千鳥こぼるゝ朧月 嵐山
墨よしや千鳥こぼるる朧月 嵐山 五車反古
墨をする硯の海に月明かり 寺島たみ子
墨をつけた顔でもどつて来た 尾崎放哉 小豆島時代
墨をぬるランプの夜明水鶏鳴く 皆吉爽雨
墨をもてさらりと蕪画かれけり 長谷川櫂 蓬莱
墨を以て大萬緑を描きたる 中杉隆世
墨を濃く愛新覺羅氏へ賀状 森田公司
墨を濃く一字写経や夏きざす 美谷島寸未子
墨を磨り終えて真向う冬の山 桂信子
墨を磨るなめらな音も冬とおもふ 上村占魚 『玄妙』
墨を磨るほかに音なき白障子 片山由美子 天弓
墨を磨る心しづかに冬に入る 桂信子 月光抄
墨を磨る長梅雨の鬱払ふため 鷹羽狩行
墨一色彩百色の夏の山 滝青佳
墨烏賊の墨にまみるる余寒かな 鈴木真砂女 夕螢
墨烏賊の墨美しき朝の歴史 攝津幸彦 鹿々集
墨火華麗に盛って 陶師の妻 伊丹三樹彦 正月
墨絵にもほのかなる紅風光る 福島加津
墨絵へと帰る八坂の寒鴉 乙も 明隅礼子
墨絵めく霧の山河や雪舟忌 檜 紀代
墨絵書く心床しや年のくれ 桃隣
墨吉や今一*しぐれと暮る迄 諷竹
墨工のわが眼触れざる側も汚れ 橋本多佳子
墨工の黙つひに住し工房去る 橋本多佳子
墨工房寒気はなれぬ煤天井 谿昭哉 『航跡』
墨痕に父の温みや花曇り 水原春郎
墨痕のいづれ身に沁むものばかり 上田五千石『天路』補遺
墨痕の飛び散るままに 福寿草 伊丹三樹彦
墨痕の肘に付きゐし夏行かな 岩城久治
墨痕を淋漓のままに古屏風 鷹羽狩行
墨刷いて多摩の横山戻り梅雨 川崎展宏
墨擦つて涅槃の雪となりにけり 永方裕子
墨擦るや夜の雨音の芭蕉より 丹羽 啓子
墨師らに小湯壺三つ露の土間 飴山實
墨匠に沸き続く風呂かまど猫 田中英子
墨象の墨飛び散つて羽抜鶏 鬼貫
墨色の金うかべたり日雷 石田波郷
墨色の富士へ短かき男郎花 三枝正子
墨色の夜のむかうの猫の恋 木栓恵美
墨水に妓と遊ばむか芋名月 筑紫磐井
墨水に妓と游ばむか芋名月 筑紫磐井 婆伽梵
墨水の行燈鈍仙の納豆かな 会津八一
墨水は燈籠もこはくおぼすらん 燈籠 正岡子規
墨青く磨ればしぐるる桂郎忌 古賀まり子
墨蹟寒香五臓雲行き水行けり 中村草田男
墨折つて言葉掠るる厄日雲 秋元不死男
墨折れて七夕雨となりにけり 秋元不死男
墨倉の明け放たれし四温かな 佐藤美智子
墨蔵の錠ぬばたまに年つまる 西村和子 かりそめならず
墨足る筆 奥歯噛むにも 奥歯無く 伊丹三樹彦
墨打ちの糸の直線風光る 富田好江
墨達磨ぎろりと睨める安居かな 阿波野青畝
墨淡く書いて涼しき弔句かな 上田五千石『琥珀』補遺
墨竹の上に瓶梅の影を印す 梅 正岡子規
墨竹の風しかと見ゆ初雀 十王
墨坪の奥はよし野と姨捨と 松岡青蘿
墨壷の糸びんびんと山眠る 長谷川双魚
墨堤に雨の明るし桜餅 下山宏子
墨堤に花人となる足慢ろ 高澤良一 寒暑
墨堤に人ごゑひびく雨水かな 喜多みき子
墨堤に雀弾める福詣 依田安子
墨堤に年の豆打つ艀人 御子柴光子
墨堤に返す波間の都鳥 鳥飼しげを
墨堤のさくら大きく波うって 高澤良一 寒暑
墨堤の雨の桜となりしかな 片山由美子 風待月
墨堤の花冷え募る太極拳 高澤良一 寒暑
墨堤の桜を見むと傘さして 細見綾子 天然の風
墨堤の三月十日茜燃ゆ 松木 実
墨堤の浮浪者に湧く朝ざくら 高澤良一 石鏡
墨堤の埃まみれに冬霞 佐藤鬼房
墨堤の櫻過ぎゆき梅若忌 森澄雄
墨堤やつくし二本に声あげて 須賀一男
墨提に空のもどりし桜しべ 小島健 木の実
墨吐いてくぼめる腹や烏賊かなし 岡田耿陽
墨吐て烏賊の死居る汐干哉 汐干狩 正岡子規
墨吐て烏賊め死居る汐干哉 汐干狩 正岡子規
墨豆腐や妻が居ぬ夜の恋衣 尾崎紅葉
墨縄に美しうちるさくら哉 松窓乙二
墨縄の墨が付けりけしの花 成田蒼虬
墨匂ふ漢の山々眠りけり 室生犀星 犀星發句集
墨入れしをんなの肌西鶴忌 鷹羽狩行
墨梅の軸にさしけり初日影 初日影 正岡子規
墨梅の軸にさしこむや初日の出 初日 正岡子規
墨買うて仏に逢うて奈良遅日 浅沼 艸月
墨買ひて茶をもてなさるあたたかや 大石悦子 聞香
墨買ふや大和にかかる春の虹 町田しげき
墨髭も洗ひかえてや更衣 魯九
墨髭や豆腐抱て年の暮 車庸
墨付し行燈を泣くきり~す 越人 (子の空しく成るあとにて、与風見付侍りて)
墨磨ってゐて元日の顔となる 加藤知世子
墨磨つて七夕月の夜気にゐる 上田五千石『琥珀』補遺
墨磨つて徐々に見えくる夕螢 小泉八重子
墨磨つて水に色やる星月夜 上田五千石『琥珀』補遺
墨磨りて正座の長き懐手 小原紫光 『めくら縞』
墨磨るやこころにひゞく夕河鹿 山中三木
墨磨れば二月去りゆくひびきかな 上野さち子
墨磨れば墨の声して十三夜 成田千空
墨浴びることを覚悟の烏賊を裂く 堂前悦子
墨流れ雲龍となる硯洗ふ 山口青邨
墨涼し馬を描けば奔ばんとす 会津八一
墨練りて出来たり「天地玄黄」と 阿波野青畝
墨壺に井戸水差して初仕事 小林 馨
墨壺の糸ぴんぴんと山眠る 長谷川双魚 『ひとつとや』
墨壺や大工の覗く梅の花 怒風
墨壺を捧げはべりて初仕事 桑田青虎
墨滲むごとく焼野となりゆけり 川島朗生
墨蜻蛉或は紺を刷きにけり 阿波野青畝
墨蜻蛉参差と羽うつ極暑かな 阿波野青畝
墨蜻蛉出水の道のへりへりを 阿波野青畝
墨蜻蛉風支へしが流しけり 小原菁々子
牧谿の墨さながらに野分雲 阿波野青畝
奔放に墨はしらするお書初 角川照子
凡の墨すりて香もなし梅雨の入り 及川 貞
盆すぎの忽とうす墨いろの海 成田智世子
磨りおろす墨なめらかや夜の秋 上田五千石 天路
磨りたまる墨のみどりや家康忌 藤田あけ烏
磨りためし墨に塵なき夏書かな 高浜虚子
磨り込みし墨を一筆冬木にする 望月たけし
磨り終へし墨をことりと櫻の夜 小澤克己
磨り置ける墨のみどりや家康忌 藤田あけ烏 赤松
磨る墨に雁の羽音のまぎれしや 齋藤愼爾
磨る墨に酒の一滴白雄の忌 竹中龍青
磨る墨の吸ひつきのよき二日かな 澤田佳久
磨る墨の金粉浮きて初硯 鷹羽狩行
磨る墨の香にしまりたる二日かな 梅里全子 『祝矢』
磨る墨の香りがゆかし初写経 曽田卓夫
磨れば濃く墨の応へて立夏かな 鷹羽狩行
万緑の墨のごとしや海芋咲き 山口青邨
満関の花の薄墨暮れにけり 渡邊千枝子
夢に書く墨痕淋漓屏風 山口青邨
夢に色あらば淡墨桜かな 西川五郎
霧入れて墨ひといろの軸仏 荒井正隆
名を書くや奈良墨にほふ雑煮箸 的場 敏子
名月や墨摺くだす古瓦 加舎白雄
命毛を墨のぼりくる淑気かな 前田恭子
明け易し硯離れぬ使ひ墨 秋元不死男
木の間漏る安居の墨の香なるべし 殿村莵絲子
餅腹の重きを据ゑて墨をする 杉本零
弥生尽烏賊が墨吐くはしりもと 石橋秀野
勇志秘めて像の磨墨寺残暑 近藤幹子
有風忌花の墨堤今日も風 柳沢一弥
誘蛾燈しきりに墨を塗りをりぬ 阿波野青畝
夕べすずしく竹が青墨の竹になる 荻原井泉水
夕影を曳く薄墨の花に又 稲畑汀子 汀子第二句集
夕澄みて夏書の墨の濃く匂ふ 皆川盤水
揺れあへる牡丹に墨をすりにけり 千石比呂志
葉桜や墨をするとき袖鳴りぬ 鈴木鷹夫 渚通り
落鮎の身の行末や墨衣 元隣
落款の丹の冴え冴えと遺墨あり 上田五千石『天路』補遺
落蝉の頭や墨を塗られしか 山口誓子
蘭を画て疊に透る墨の跡 蘭 正岡子規
蘭を画て疊に墨のこぼれ哉 蘭 正岡子規
蘭咲くや大國香は墨の銘 蘭 正岡子規
立春大吉絵馬堂に墨匂ふ 岡本菊絵
立冬や墨壺めきて谷の闇 檜 紀代
立膝のわたし墨絵のなかの黒 情野千里 「オール川柳」
流れざる墨のゆくへや光悦忌 石寒太 あるき神
流れゆく墨の行方や光悦忌 石 寒太
流星や墨壱丁を照らしたる 永田耕衣 冷位
竜天に登る古墨に重さなし 福田甲子雄
両頬に墨つけふくら雀かな 川崎展宏
涼あらた越前和紙の墨流し 増山千鶴子
涼新たパンに眠りし烏賊の墨 二村典子
良寛の墨の飛沫よこほろぎよ 小檜山繁子
良夜とは墨のひろがりはじめかな 筑紫磐井 未定稿Σ
輪飾りのすでに煤けつ墨造り 澤田 緑生
礼帳に備へて徽墨又湖筆 阿波野青畝
礼帳も新毫も未だ墨付かず 阿波野青畝
練りあげし奈良墨匂ふ春夕べ 森 重夫
連如忌の墨の匂いへ忘れ雪 穴井太 天籟雑唱
炉の名残墨交る朱硯洗ひけり 柴田紫陽花
露けしや一滴磨れば墨の足り 八染藍子
露けしや一滴麿れば墨の足り 八染藍子
露けしや重ねてしまふ墨・硯 鷹羽狩行
露けしや母の遺しし墨使ふ 田川飛旅子 『山法師』
露の世の又書く手紙墨書もて 星野立子
俎や青菜で拭ふ烏賊の墨 松瀬青々
俤は菊の香深き墨絵かな 除風
楸邨の墨宙小鳥渡りけり 綾部仁喜 樸簡
溽暑なる顔にはじけし烏賊の墨 影島智子
瞑(めつむ)れば紅梅墨を滴らす 角川春樹
瞑れば紅梅墨を滴らす 春樹
祗王寺の今昔薄墨椿咲く 山田弘子
筍や墨信に人なつかしき 小川軽舟
糶り落すこゑに大蛸墨を吐く 南方 惇子
糶終る土間のくぼみに烏賊の墨 木村里風子
糶台の花烏賊墨を洗はれる 阿部寿雄
芒描く薄墨さらにうすめつつ 能村登四郎
藪の井や夏の一合は経の墨 野坡
蜻蛉に墨糸ぴんと打たれたり 龍岡晋
蝸牛みづからゑがく墨淡く 山口青邨
蝙蝠や薄墨にしむふしの山 蝙蝠 正岡子規
蠅に吾が墨舐めさせて晝寐かな 幸田露伴 谷中集
雉子鳴くや写経無の字に墨つげば 吉野義子
雉子啼くや写経無の字に墨つげば 吉野義子
霹靂と墨書して四肢おとろふる 塚本邦雄
颱風の浪見て墨を磨りにけり 山口誓子
鮠あゆる墨股川の瀬ごしかな 旦藁
鰆舟薄墨に陸暮れゆけり 根岸善雄
鰤肥り白磁のごとき胸を揃ふ 墨石
黐咲いて久女の遺墨蔵す寺 能村登四郎

俳句の四方山話 季語の例句 句集評など
by 575fudemakase
カテゴリ
全体無季
春の季語
夏の季語
秋の季語
冬の季語
新年の季語
句集評など
句評など
自作
その他
ねずみのこまくら句会
ブログ
自作j
自作y
未分類
以前の記事
2024年 03月2024年 02月
2024年 01月
more...
フォロー中のブログ
ふらんす堂編集日記 By...魚屋三代目日記
My style
メモ帳
《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。
尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。
《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)
例1 残暑 の例句を調べる
検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語
例2 盆唄 の例句を調べる
検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語
以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。
検索
タグ
お最新の記事
| 書道 書・筆・墨・硯の俳句 |
| at 2024-03-08 10:04 |
| しょどう |
| at 2024-03-08 09:38 |
| すずり |
| at 2024-03-08 09:35 |
| 筆の俳句 |
| at 2024-03-08 09:26 |
| 墨の俳句 |
| at 2024-03-08 09:04 |
| 書の俳句 |
| at 2024-03-07 18:12 |
| 佐々木敏光句集 富士山麓・秋.. |
| at 2024-03-07 05:49 |
| 山口昭男著 波多野爽波の百句.. |
| at 2024-02-26 02:57 |
| ザッピングzapping? |
| at 2024-02-24 00:32 |
| 私の俳句入門 大野林火編 有.. |
| at 2024-02-21 01:39 |
| 茨木和生著 右城暮石の百句 .. |
| at 2024-02-20 03:20 |
| 季寄せを兼ねた 俳句手帖「春.. |
| at 2024-02-11 18:17 |
| 我が家の梅 2024/02/.. |
| at 2024-02-06 13:51 |
| 山本周五郎短編シネマ「雨上る.. |
| at 2024-02-06 05:44 |
| 山本周五郎短編シネマ「雨上る.. |
| at 2024-02-06 05:44 |
| 私の節分 2024年2月3日.. |
| at 2024-02-04 05:56 |
| 電柱のトランスの上冬... |
| at 2024-02-01 00:58 |
| 藤埜まさ志句集 若水を読んで.. |
| at 2024-01-31 14:12 |
| 自然知能 外山滋比古 扶桑社 |
| at 2024-01-30 06:03 |
| 私の人生 老子さんに学びたい.. |
| at 2024-01-28 03:42 |
