ERPソリューションは、新たなビジネス施策に対応するために、目的に合ったものでなければならない。しかし、IT部門は、重要な改善のためにビジネス部門の関与や資金提供を確保することにしばしば苦戦している。ERP担当のリーダーは、本リサーチノートに示すベスト・プラクティスに従いERPソリューションを「改修」することで、企業のデジタル化を支えるべきである。
要約
主要な課題
- ERPの投資では、既存ソリューションのリノベーション(改修)よりも、ビジネス・ニーズに応えるための新規ソリューションの開発に重点が置かれることが多い。
- 不安定なコア上での革新は、問題を招き、期待されるビジネス成果を実現できない。
- ERPの改修のスポンサーは暗黙のうちにIT部門とされることが多く、この重要な作業に対するビジネス部門の注目が弱まる原因となっている。
- ERPの総合保有コスト(TCO)は、過小評価されることが多い。実装後は、ソリューションの運用と発展に関するコスト削減の圧力がIT部門にかかり、その結果、やがてコアが不安定なものになる。
推奨事項
- 戦略的な視点を持ち、差別化や革新をめぐる他のビジネス・ニーズの中でERPのリノベーションを位置付ける。
- 改修計画の範囲を十分に設定し、新たな投資と並行してリノベーションを進める機会を特定し、開拓する。
- ビジネス部門の主な利害関係者のうち、とりわけ新たな機能へのサポートが緊急課題となっている関係者から、改修のためのスポンサーシップを確保する。
- TCOモデルの構築と更新に時間を割き、改修作業を通じてERPのTCOを最適化する。
はじめに
ガートナーが実施した2014年のCIOサーベイ(根拠1参照)は、新たなIT支出に関する2つの戦略上の緊急課題が浮き彫りになった。
- ITのコアのリノベーション:すなわち、インフラストラクチャと、主なITアプリケーション/サービス(ERPやソリューション開発) が目的に合ったものとなるように「改修」する。
- 新たなデジタル・トレンドの開拓:これは1つ目の緊急課題によって実現される。
デジタル・ビジネスの需要は、企業が新たなビジネスモデルによって革新を進め、「ビジネス・モーメント」に対して直ちに行動を取れる態勢になければならないことを意味する。したがって、企業には以下が必要となる。
- 効果的、効率的かつ確実に業務を行うための既存のプロセス機能
- 既存の業務機能を、より迅速に、一貫性を保ちつつ変える能力
- デジタル化の機会を生かすためのビジネスモデルを再考することで生じる新たなビジネス・プロセスや機能
従来のERP導入のほとんどでは、革新と俊敏性よりも統合と標準化が優先されており、デジタル・ビジネスの課題や機会に対応する企業の能力は制限されている。最近のガートナーの調査では、回答者の92% (根拠2参照)が、ERPは重要、非常に重要、またはビジネスにとって欠かせないと答えている。したがって、ERPは、ほとんどの企業にとってバックボーンとなっているが、このバックボーンが不安定であったり、適切に維持されていなかったりすれば、新たな業務機能を効果的にサポートできない。ERP担当のリーダーは、ポストモダンERPのモデルに移行する一環として、コアERPシステムを改修し、変化するビジネス・ニーズに対応しやすい、よりオープンで疎結合の環境を提供する必要がある(「Develop a Strategic Road Map for Postmodern ERP in 2013 and Beyond」参照)。ERPのリノベーションができなければ、企業は、デジタル化の達成や維持ができないことになる。
分析
戦略的な視点を持ち、差別化や革新をめぐる他のビジネス・ニーズの中でリノベーションを位置付ける
ERPソリューションの初期実装後の改善は、戦術的に実行されることが多い。特定のビジネス・ニーズ(新たな製品ラインの投入など)に対応するためであったり、外的要件(支払処理に関する法律の遵守など)に後押しされて行われたりする場合もある。このアプローチは、結果として次のいずれか、または両方の特徴を生む。
- まとまりのない変更:ERPソリューションのプロセス、インフラストラクチャ、アプリケーションへの変更をある期間行うということは、ソリューションが元の設計からそれることを意味する。ガートナーは、最初の実装以降、何年もの間にいくつもの変更を加えてきた結果、アップグレードや保守が困難(場合によっては不可能)な、高度にカスタマイズされたソリューションを抱えた顧客の話を聞くことがよくある。
- 環境の崩壊:適切に運営された実装プロジェクトでは、文書化、トレーニング、教育、スーパーユーザー・ネットワーク、ガバナンスなどの基本的な要素に注意が払われている。本稼働の開始後に、方針、手順、作業方法などの保守が低下し始める。稼働開始後のサポートが終了した日から急速に低下する場合もある。数年後には、スーパーユーザー・ネットワークはもはや存在せず、トレーニングの資料作成や提供も中断され、文書は紛失されるか、または古くなり、意思決定は、果てしなく寄せられる要求への対応に重点が置かれる。
家を例に考えてみよう。まず建築士が設計図を描き、建築業者が建築士の設計図にほぼ沿った家を造り上げ、そこへ居住者が引っ越したとする。何年か後には、暖房と電気系統の取扱説明書が行方不明になり、書斎は寝室になり、浴室では水が漏れ、1階に増築した部分には構造に亀裂が見られる。この時点で、新しい家を購入する考えが浮かぶ。しかし、再び新築の家に引っ越すよりも、低コストで混乱も少ない改修や修繕の方が好ましい場合が多い。
ガートナーが実施した2014年のCEOサーベイ(根拠3参照)では、戦略的なビジネスの優先事項として、「成長」が他のカテゴリを大幅に引き離していることが明らかになった。企業は、じっとしてはおらず、デジタル・ビジネスによる混乱は今後2〜3年の間に激化すると考えられる。ERPのリノベーションは、新たなビジネス・ニーズをサポートするためにソリューション全体を「完全に置き換える」よりも(迅速さ、低コスト、最適な価値提供という点で) 優れていることが多い。
リノベーションを成功させるために、ERPリーダーは包括的なアプローチを採用すべきである (図1参照)。
図1. ERPのリノベーション
出典:ガートナー (2014年7月)
まず、以下のような戦略的取り組みとしてリノベーションを位置付ける。
- 企業の広範なエコシステムをサポートする。プロセスが主に社内で完結している場合、ERPの問題も社内にとどまる可能性がある。プロセスが社外まで広がる場合(そのような例は増えている)、問題は社外にまで及ぶ。ビジネス・パフォーマンスや、社外の利害関係者(顧客、消費者、サプライヤー)の自社に対する認識にさえ影響を及ぼし、ビジネスの成功を損なう恐れもある。
- 基礎となるしっかりとしたコアを確立する。ERPソリューションのフレームワークと構造は、強力で健全でなければならない。家の土台、壁、天井が十分に堅牢でなければ、家を増築したり、壁を取り壊したりすることはできない。
- 不要な複雑さを排除する。複雑さが増すほど、正常な稼働の維持、変更時のテスト、異常への対応などに費やす時間が増える。これは、変更の迅速な導入や、必要に応じて変更を期待どおりに機能させる上での妨げとなる。
- 現代的である。時代遅れのソリューションは、ベンダーのサポートが得られなくなり、自社でもサポート不可能になる。定期的な保守が重要である。
- 企業の俊敏性を実現する。差別化と革新に関するビジネス・ニーズ(とりわけデジタル・イニシアティブに関するもの) は、一刻を争う。対応が間に合わなければ、競合他社に先を越されることになる。
改修計画の範囲を十分に設定し、新たな投資と並行してリノベーションを進める機会を特定し、開拓する
デジタル化によって加速するビジネスの変化のペースは速く、新たなビジネス需要への対応に先立って改修活動を行う機会は限られている。おそらく、ERPのリノベーションは、優先順位の高い業務機能への対応作業と並行して行わなくてはならない。しかしながら、家の改築と同様に、基本的な配線や配管を先に行う必要はあるものの、ある活動を他の活動よりも優先的に行うチャンスはある。したがって、初めに改修が必要なすべての領域に目を向けるべきである。
まず第1に、ERPソリューションの健全性の評価、すなわち、企業としてそれをどのように利用し、サポートしているかについての評価を行う。ITやビジネス部門の認識にのみ依拠するのではなく、事実に基づいて評価する。自社のERPコンピテンシ・センター (ERP CC) が、「ERPの実行」レベル1の成熟度 (「Business, Technology and IT Evolution Shape the Future of the ERP Competency Center」参照)より先へ進んでいる場合、客観的な健全性チェックを推進し、支援すべきである。デジタル・ビジネスが、「その場しのぎ」を容認または許容でき、空いた時間での「日曜大工」的な活動でやり通せるものと
は考えず、健全性については正直に答える。以下の不可欠なステップに従う。
- 既に所有しているデータ(インシデントや問題の履歴など)を検証する。パターン、問題箇所、弱点または劣化している箇所を探す。
- ツールを活用し、システム内の使用している部分 (および使用していない部分) を見極める。処理のボトルネック、パフォーマンスのホットスポット、冗長性を探す。
- ERPチーム (サードパーティ・サービス・プロバイダーも含む) が何に時間を割いているかを確認する。とりわけ、企業にとっての価値をほとんど、またはまったく提供していない活動に時間を割いている箇所がないかを探る。
- リノベーションに必要となる可能性があるスキルや能力を評価する。ガートナーが実施したCIOサーベイ(根拠1参照)の回答者のほとんどは、デジタル化の課題に対応するためのスキルや能力が備わっていないと述べている。スーパーユーザー・ネットワーク、プロセス・オーナーシップ、ERP CCなどの領域について確認する。
- プロセスを改める必要性について評価する。マシン・インテリジェンスやテクノロジの能力が急速に向上する中、企業はビジネス・パフォーマンスを高め、デジタル化された新たなビジネスモデルを実現するために、マシンと人との間で作業の再設計とバランスの再調整ができなくてはならない。プロセス設計の文書化、トレーニング、テスト、ガバナンス、戦略、計画、技術的な変更管理などの領域について確認する。
- データや情報を修繕する必要性について評価する。デジタル・ビジネスにより、ERPは非構造化データ/情報を扱う必要性が出てくる。従来のERPソリューションは、これを(実現するのではなく)防ぐように設計されている場合がほとんどである。
- テクノロジの改修を評価する。ERPソリューションは安定し、(複雑さによる付加価値がなければ)単純化されていなければならない。しかし、さらに重要なこととして、企業は、デジタルの成功に欠かせない強化・補完された機能を提供するために、(既存のERPベンダーや他のベンダーから提供される)新機能を配備する必要もある。その結果、一般的にはERPソリューションが完全に最新のものでなければならなくなる。インフラストラクチャ、統合、ツール、カスタマイズ、構成、ソフトウェアのバージョンなどを確認する。
第2に、自社ビジネスの既知の業務に関する現在のパイプラインと、将来のニーズおよび緊急課題を(まだ明確になっていなくても)評価する。ERPに直接影響を及ぼすニーズだけではなく、それを間接的に活用するニーズも考慮する。
- 非常に速い変化や影響の大きい変化が予想される領域(例えば、グローバル・サプライチェーンや新たなデジタル市場) を特定するために、ビジネス戦略と長期的な戦略目標を理解する。
- 機能上のニーズだけでなく、ERPソリューションがどのように使われているか、どのように使用を改善できるか(例:モバイル・アプリ)、またどのような進化が考えられるかについても検討する(例:インメモリ・コンピューティング)。
- ERPソリューションのサポートと開発をIT部門が改善できるよう、そのニーズを組み込む(「Working Smarter, Not Harder, Is the Key to Business Success With ERP」参照)。
第3に、ERPソリューションで本当に改善が必要なのは何かを考える。必要なリノベーションの程度と範囲を評価する。
- 最小限の改修で済む部分もあれば (不必要な小さなカスタマイズなど)、大掛かりな改修や対応が必要な部分もある(例えば、データ品質上の深刻な問題、広範なカスタマイズ、行方不明の文書など)。
- サポートが終了したオンプレミスの人事ソリューションを、サービスとしてのソフトウェア(SaaS)による人的資本管理サービスに置き換えるなど、ERPソリューションの部分によっては、条件に置き換えが必要となる場合がある(「ポストモダンERP戦略においてSaaSアプリケーションを活用し、ユーザーの利用拡大とプロセス改善を図る」APP-14-74、2014年7月15日付参照)。
リノベーションを無条件の置き換えと混同してはならない。診断した結果、改修で対応できない、より根本的な問題が明らかになる可能性がある。これは「旧聞」、すなわちよく知られているにもかかわらず対応されていない、あるいは認識されていない問題の場合がある。再び家の例で考えてみよう。10年にわたって構造上の亀裂の広がり、危険な配線、広範囲の腐朽に気付いてきた。これをERPに言い換えると、過度にカスタマイズされ、マイグレーション・パスがなく、サポートされていないバージョンであり、社内ではサポート力が限られた(サードパーティからも提供されていない)15年来のERPシステムとなる。これは改修すべきケースではなく、置き換えに当たる例であり、ガートナーの今後のリサーチでも取り上げる予定である。
第4に、改修作業の順序付けの選択肢やクリティカル・パスも含め、計画を立てる。
- どの改修作業が基盤となる性質のもので、最初に行われるべきかを判断する。これが基本的なクリティカル・パスとなる。
- 優先順位を特定する。デジタル・ビジネスのニーズは、まだ正確ではなくても、優先すべき領域を浮き彫りにする (例えば、顧客に直接応対するプロセス。「Toolkit: Use Pace Layering With Business Capability Modeling to Prioritize Investment Decisions」参照)。これにより、モビリティのように、クリティカル・パスとして考慮すべき領域が明らかになる場合もある。
- 機会を生かす。改修のニーズを既存の計画と併せて見直す。リノベーションが必要な領域について、既に計画されている作業が存在する可能性もある。作業を2度行うよりも、同時に改修することを検討するとよい。作業範囲がいくらか広がったとしても、2度取り組むよりも1度で済ませる方が (リソース、時間、コストの点で) 常に好ましい。
- リノベーションと置き換えを同期する。ERPソリューションに置き換えが必要な部分がある場合(一部の機能をクラウド・サービスに移行するなど)、置き換え作業とリノベーションが連携して行われるようにする。「触るのは1度だけ」という原則を基に意思決定を行う。
- 「小さくかみ砕く」。多くの企業において、ERPはモノリシックなソリューションである。こうした一枚岩のシステムの改修では、1度にすべてに着手することができない。したがって、対応可能なコンポーネントを探る。例えば、スーパーユーザー・ネットワークの強化をトレーニングおよび文書化の更新と並行して行ったり、インメモリ・コンピューティング機能を取り入れるための変更と併せて、受発注管理のカスタマイズを取り除いたりする。
- 全体的な改修計画を策定するものの、調整にも備えておく。デジタル・ビジネスの特徴は、ペースが速いことである。俊敏性の計画に際しては、新たなニーズや優先順位の変更に対応するために迅速に適応できるよう、計画とその依存関係に関する深い知識が必要である。
ビジネス部門の主な利害関係者から、改修のためのスポンサーシップを確保する
成長への要求と、ビジネス戦略を実現するために必要な俊敏性により、ビジネス部門の利害関係者の注目は、常に「新しいものの構築」に集まる。彼らは、リノベーションのような作業(文書やトレーニング資料の更新など)を、ERPCCが「見えないところで」行っているものだと考える可能性がある。IT部門が、すべての改修作業について既定のスポンサーとなってはならない。そうなった場合、求められる速さと集中力で作業が進んでいく可能性は極めて低くなる。ERP CCがレベル3まで成熟しているのであれば、リノベーションの推進役として最適となる (「How to Move ERP Competence Center Maturity From
Level 1 to 2 to 3」参照)。
時間をかけて改修のケースを立証する。ERPリーダーは、とりわけ企業のデジタル戦略に責任を持つビジネス部門のリーダー(例えば、最高デジタル責任者[CDO])と密接に連携し、2つの観点から改修のケースを立証する必要がある。
- ビジネス・パフォーマンスおよびデジタル化を妨げる問題に対処する。時間とともに、ビジネス・ユーザーは、ERPソリューションについて欠点も含めて諦めと受け入れの両方を示すようになる。必要に応じて、今日のERPの仕組みに関する苦痛を大げさに示す。ERPソリューションを排除することが唯一の答えというユーザーの認識を生む(またはあおる)ことのないよう注意する。どの難点が企業のデジタル化への熱意に最も影響を及ぼすかを判断し、改修されなかった場合のERPがどのようにデジタル・ビジネスの妨げとなるかを示す直接的な因果
関係を組み立てる。このカテゴリには、安定化と単純化に関する領域 (例:不必要なカスタマイズの排除) やクリーンアップ (例:マスタ・データの品質改善) が含まれる。
- デジタル化を実現するためのリノベーションの緊急課題を、並行して特定する。不可欠となる新たなビジネス機能にとって、根本的なERP機能を直接位置付けるために、そうした機能を注意深く検証する。このカテゴリの改修作業は強化された機能の提供に注力したものとなるが、1つ目のカテゴリに左右される可能性が高い。重要な点は、ほぼ必ず、ERPソフトウェアを最新バージョンに保つ(かつ常に取り残されないようにする)必要があることである。次のような例について考えてみよう。3Dプリンティングは、OEMによる予備部品の製造の可能性を変える。最終消費者、物流業者、ディーラー、保守/修理/運用(MRO)サービス・プロバイダーや小売業者は今や、部品をプリントできるようになった。これにより、サプライチェーン、注文プロセス、および価値の流れも変わるため、いずれもERPソリューション(営業、流通、製造、サービス管理、収益性分析機能など)の変更を要するようになる。この変化は、リアルタイムの計画・実行をサポートするインメモリ・コンピューティング、社外の最終消費者にまで及ぶプロセスをサポートするコラボレーション機能、収益の報告や洞察をサポートする新たな分析機能など、新たな機能の実装を迫る可能性がある。
続いて、ERPリーダーは以下を行わなければならない。
- リノベーションの活動ごとに利害関係者を特定する。ビジネス・リーダーやマネージャーは、成果の多くから、直接的または間接的に何かしらを得られるはずである。自社のデジタル・ビジネスまたはデジタル化の責任者や、企業の重要な変革の推進者を探す。リノベーションの総合的なスポンサー(おそらくCEOや最高デジタル責任者)を確保する必要があるものの、リノベーションはスポンサーが1人しかいないような単一のプロジェクトではない。
- 利害関係者の目標をリノベーションと結び付ける。これには例えば、資材所要量計画 (MRP)を実現するリアルタイムのインメモリ・コンピューティングがサポートする、顧客注文への即時対応などがある。受発注管理において使われていない、または不必要なカスタマイズを排除するなど、間接的な結び付きも検討することで、ITリソースを解放し、変更を単純化し、迅速に実装できるようにする。
- 改修作業によっては、ITリーダーのスポンサーシップが必要なことを認識する (例えば、ERPのインフラストラクチャの改修についてはCIOがスポンサーとなる)。目に見えにくく、ビジネス成果との直接的な結び付きが薄い基礎的な改修活動も、とりわけ資金提供、ガバナンス、リソースの割り当てに関しては、総合的なスポンサーシップの下に置かれるよう徹底する。
改修作業を通じてERPのTCOを最適化し、TCOモデルを構築または更新する
いかなる改修作業も、ERPのTCOに変化をもたらす。しかしながら、ERPのTCOを追跡/理解し損ねている企業は多く、実装後に維持コストが目立つようになると、いら立ちや失望を生む恐れがある。リノベーションは、最新のTCOと、何がその増加または減少を後押しするのかについての理解を改善するきっかけとなるべきである。改修作業の中には、実際には個々のコスト要素または総コストさえ増加させるものがあるが、それらはリノベーションを通じて得られる価値によって正当化される。
ERPリーダーは以下を行う必要がある。
- モデルが存在しない場合は、財務部門の支援を得て、ERPの包括的なTCOモデルを構築する(「ERPの全耐用期間にわたるTCOを管理し、最適化する」APP-14-73、2014年7月15日付参照)。
- 既存のあらゆるTCOモデルを見直し、基準値を更新し、計画されている改修作業に基づいてコストの構成要素に関する追加や修正を行う。
- 改修作業のTCOへの影響を評価し、作業の順序、範囲、タイミングなど、選択肢やオプション
がある場合にはシナリオのモデリングを実施する (「ツールキット:ERPコストの最適化」
APPS-14-02、2014年8月5日付参照)。
- コストが掛かっている領域を考慮し、改修活動のコストと利益を最適化することで、改修策がこれらにプラスの影響を及ぼすようにする。
- (コストに関する作業と並行して) リノベーションによるメリットについても、推定、モデリング、計画、責任の所在の確認に関して同様の厳しさを保つ (「Achieve Postmodern ERP Benefits Realization by Focusing on Value Measurement Disciplines」参照)。
- ERPの改修作業をデジタル・ビジネス戦略と結び付け、それを維持する。次に、ERPのリノベーションがこうした戦略の成功をどのように支援し、実現するかを注視する。
推奨リサーチ
- 「Develop a Strategic Road Map for Postmodern ERP in 2013 and Beyond」
- 「ERP Strategy Must Address the Challenges of Postmodern ERP」
- 「How to Develop an ERP Strategy」
- 「デジタル・ビジネスのアジェンダ:2014年」(ITM-14-12、2014年7月18日付)
- 「Digital Business: 10 Ways Technology Will Disrupt Existing Business Practices」
- 「Let's Get Digital: A Template for Digital Business Strategy」
根拠
- 2014年のCIOサーベイ (「Taming the Digital Dragon: The 2014 CIO Agenda」参照)
- 2013年11月に実施したGartner Research Circle調査「The Outlook of ERP in the Enterprise」
- 2014年のCEOサーベイ (「The 2014 Gartner CEO and Senior Executive Survey: 'Risk-On' Attitudes Will
Accelerate Digital Business」参照)
(監訳:本好 宏次)
APP: APP-14-110 (G00266866)
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